研究課題/領域番号 |
20K15280
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
角永 悠一郎 大阪大学, 放射線科学基盤機構, 特任助教(常勤) (30836903)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 電解酸化反応 / アスタチン-211 / がんターゲティング分子 / チロシン |
研究実績の概要 |
近年、強力なエネルギーを持つα線によりがん治療を行う、α線核医学治療法が注目されている。申請者は、α線放出核種アスタチン-211(211At)をがんターゲティング分子へ標識するための効率的な方法として、電解酸化反応に着目した。211At標識化は、従来の方法では毒性の高い水銀やスズを用いるため、医薬品の製造に向いていない。最近、毒性の低いボロン酸を用いた標識化法も開発されつつあるが、ボロン酸の化合物への導入が煩雑であることなどが課題となる。我々が開発を目指す電解酸化反応では、毒性の高い試薬を用いず、かつ煩雑な合成も必要ないため、医薬品開発にとって大変優位である。 まずは、211Atの酸化条件の最適化を行った。211Atは、電圧を上げると電極に吸着するため、細かな電圧制御が必要である。また211Atは、酸化数の異なる複数の化学種との混合物として得られるため、反応の評価が難しい。検討の結果、反応電圧は1000 mVが最適であることが分かった。また、反応系を酸性条件にすることにより、211Atの吸着を抑えられることも分かった。化学種の問題に関しては、反応系にNaIを加えることにより、電解酸化反応に必要な211At-のみへと収束することが出来た。これらの条件下、N-アセチル-L-チロシンの電解酸化反応を行い、50%以上の放射化学的収率で211At標識体を得ることが出来た。本反応の成功により、チロシンおよびチロシン誘導体を含む様々ながんターゲティングアミノ酸・ペプチドの効率的な211At標識化が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
211Atは、①酸化数の異なる複数の化学種が容易に生成する②電解酸化反応に用いる電極に吸着するなどが理由で、反応系を組むのに大きな労力を要する。しかし申請者は、細かな条件検討の結果、N-アセチル-L-チロシンの211At標識体を得ることに成功した。電解酸化反応は、一度条件を確立してしまえば、様々なチロシンおよびチロシン誘導体含有基質に応用できるため、今後の網羅的な211At標識化分子の合成が期待できる。 上記の理由により、研究は、概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、N-アセチル-L-チロシンを用いて、反応性の向上を目指した検討を行う。現在、50%以上の放射化学的収率で211At標識体を得られてはいるが、効率的な211At標識化という観点から、更なる収率の改善を行う。次に、がん細胞に過剰発現しているLAT1標的分子であるα-メチル-L-チロシンへの211At標識化を行う。その後、RGDペプチドなど、チロシンおよびチロシン誘導体含有ペプチドの211At標識化の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、研究に必要な物品を搬入すべき建物が完成しなかったことが理由である。該当する建物は、2021度に完成する予定であり、2020年度に購入しなかった物品は、2021年度に購入予定である。2021年度分として請求した助成金は、消耗品などの購入費に充てる。なお、現在は他の建物にて研究を行っており、新しい建物が完成しなかったことによる実験への影響はほぼ無かった。
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