本研究では、電気化学的手法を活用する新規ヘテロヘリセン類の革新的合成法の確立を目指す。これまでに報告されているヘリセン化合物の合成例の多くは、煩雑な合成や高温条件を必要とする手法が多い。電解合成によってヘリセンを効率よく合成している例は無く、従来のヘリセンの合成研究とは一線を画している。本手法により、多様性に富んだキラルヘリセン化合物の迅速合成が可能となれば、様々な分野の機能性化合物群を提供でき、ヘリセンの機能性材料としての発展に貢献できる。 前年度は、ヘテロ[7]ヘリセン誘導体のスケールアップ合成に成功した。今年度は本反応の官能基耐性について調査した。その結果、ブロモ基やヨード基などのハロゲンや、ピナコラートボリル基を持つ反応基質も適用可能であり、ヘリセン合成後の化学変換も実施可能であった。その過程で、2-ナフトール誘導体として7-メトキシ-2-ナフトールを適用した際、対応するヘテロ[7]ヘリセンの両末端の芳香環間で閉環反応が進行し、8員環生成物が得られた。本化合物(以後、デヒドロ[7]ヘリセンと称する)は、[7]ヘリセンと[8]サーキュレンの中間的構造を有する多環式芳香族化合物である。詳細に本電解ドミノ合成を検討した結果、F-doped Tin Oxide (FTO)を電極に三フッ化ホウ素を添加することで、ヒドロキシカルバゾールと7-メトキシ-2-ナフトール(混合比1:1)との連続反応が効率よく進行し、目的のデヒドロ[7]ヘリセンを高収率で得ることに成功した。本合成では、300 mg以上のデヒドロ[7]ヘリセンを一度の実験操作で得ることも可能であった。また、光学純粋体のキラル光学特性の評価、ラセミ化障壁に関する熱的安定性、及び触媒的不斉合成についても実施した。
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