研究課題/領域番号 |
20K15282
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
溝口 玄樹 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (90818519)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 有機ホウ素化合物 / アート錯体 / 1,2-メタレート転位 / 炭素ー炭素結合形成反応 / ベンザイン / カップリング反応 / シクロプロペニルボロン酸 |
研究実績の概要 |
有機ホウ素分子は現代の有機化学において不可欠な化学種であり、構造多様な有機ホウ素を供給できる合成技術の重要性はますます高まっている。本研究では複雑で多彩な構造の有機ホウ素分子を簡便に構築可能な合成手法の開拓を目的として、ビニルホウ素アート錯体の1,2-メタレート転位を伴うカップリング反応に注目した。 本研究では、歪んだπ結合の反応性をメタレート転位のトリガーとして利用することを考案し、まず歪んだ三重結合を持つアラインに注目した。ビニルボロン酸エステルアート錯体に対しアラインを作用させれば、ビニル基の求核攻撃によりカップリングが進行すると同時にメタレート転位が進行する。また、これにより三重結合が開裂することで新たな反応活性種であるアリールアニオンが生じるためさらなる結合形成反応が可能であると推定される。このように歪んだ結合の特徴を最大限に引き出すことで、最大三本の炭素―炭素結合を形成しながら多成分のユニットを収束的に連結可能なプロセスが開発できると考え研究を行なった。 検討の結果、細谷らによって開発されたアライン前駆体を用い、反応系中でビニルボロン酸エステルアート錯体とアラインを反応させることで期待した反応が進行することを見出した。生じたアリールアニオンは近傍のボロン酸エステルへと環化することで環状ボリン酸を与えた。また、基質一般性の検討から、官能基許容性に制限があるものの、さまざまな置換基を持つ基質に適用可能であり、多様な鎖状分子を合成できることがわかった。 また、高い反応性や特異な選択性が見られることを期待し、歪んだπ結合を持つビニルボロン酸エステルを基質とするカップリング反応も検討した。シクロプロペニルボロン酸エステルを基質とし、セレン求電子剤を用いることで高い立体選択性と幅広い基質適用範囲でメタレート転位を伴うカップリング反応を開発できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究では、アラインをトリガーとするカップリング反応において、反応条件の最適化、基質適用範囲の調査、ボリン酸中間体の誘導化について大きな進展が見られた。 反応条件の最適化では、初期検討で低収率ながら反応の進行が見られた細谷らの前駆体を用いる条件を基本とし、基質の構造や溶媒、温度、濃度、当量などのパラメータを調整することで70%程度の収率で目的物が得られるようになった。また、さまざまな置換基を持つビニルボロン酸エステルやアライン前駆体を用いた反応から、官能基許容性や置換基の構造と収率との関係性を明らかにできた。カップリング反応により得られるボリン酸中間体は検討当初は酸化反応により両炭素―ホウ素結合を酸化し、ヒドロキシフェノールとしていたが、位置選択的なヨウ素化や鈴木―宮浦カップリングへと展開できることを見出し、複雑な構造を持つボロン酸を直接得られるようになった。 また、シクロプロペニルボロン酸エステルアート錯体を用いるカップリング反応を開発し、論文として報告することができた。本反応では、トリブロモシクロプロパンを基質とし、ブチルリチウムの作用によりシクロプロペニルリチウムとしたのち、ボロン酸エステルと反応させることで系中にてアート錯体を調製した。ここにセレン求電子剤であるPhSeClを加えることで-78 °Cにおいても速やかな転位反応が進行し、β-セレノシクロプロピルボロン酸を良好な収率で得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況に示したように、ビニルボロン酸エステルとアラインを用いるカップリング反応についてはデータがまとまってきている。現在、立体選択性に関する検討と反応機構の調査を行なっており、計算化学等も用いて詳細を明らかとしていきたい。これらのデータをもとに本年中に論文投稿を行う予定である。 また、アラインがメタレート転位のトリガーとして有用であることがわかったため、今後はビニル基以外の不飽和結合結合を持つボロン酸エステルを基質としたカップリング反応を開発する。まずは、アレニルボロン酸を用いたカップリングに取り組む。アレニルボロン酸エステルアート錯体とアラインとの反応が進行すれば、アリルボリン酸誘導体が中間体として得られる。そのため、アルデヒドなどを用いたアリルホウ素化へと展開できれば鎖状分子の多成分連結反応が開発できると期待している。 シクロプロペニルボロン酸エステルアート錯体を用いる反応開発については、1)トリブロモシクロプロパンではなくシクロプロペンを前駆体とするアトムエコノミーなアート錯体調製法の開発、ならびに2)歪みによる高反応性を生かした多様な求電子剤とのカップリング反応の開発、について検討していく。また、本手法では容易に多置換のシクロプロパン化合物が合成できることから、ジビニルシクロプロパンの調製と、そのCope転位による7員環構築についても検討したい。
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