本研究ではナザロフ反応を基盤に、細胞内外の酸性環境で利用可能な「分子放出反応」の開発を目的とする。「分子放出反応」は結合切断に伴って分子が放出される反応であり、その開発は、結合形成反応だけでは達成の難しい新たな分子制御技術(例えば、センシング分子、分子標的薬、ドラッグデリバリーシステムなど)の創製へと繋がる。一方で、既存のプロトン化を分子放出のきっかけとする「分子放出反応」の多くにおいては、酸環境特異性もしくは反応性が低いという課題がある。そこで、本研究では、独自の「アルコール放出型高速ナザロフ反応」を利用することで、これら課題を克服した新たな分子放出反応を開発することを検討する。 一般的なナザロフ反応では塩酸などの強酸を作用させる必要があり、これが分子放出反応へと応用する際の課題であった。これを解決するため、昨年度までに「高活性化ジビニルケトン」を設計したところ、プロトン性溶媒中で進行する「中性ナザロフ反応」の開発に成功した。 本年度では、この高活性化ジビニルケトンがリチウムイオンを活性化源としてもナザロフ反応が進行することを明らかにした。本反応では環化過程に続いて、リチウムフェノキシドの脱離と付加が起こると考えられる。すなわち、一般的なナザロフ反応では共存できない塩基が系中では生じており、塩基性条件でのナザロフ反応であると捉えることもできる。
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