本研究課題では有機合成化学者が簡便に扱うことのできる計算化学ツールの開発と、それを利用した天然物合成の効率化を目的とした。この課題に対して、一昨年度までに、多配座解析処理プログラムACCeLを開発・公開(https://accel.kfchem.dev/)し、昨年度から本年度にかけてはその改良と応用研究に注力した。ACCeLは配座異性体の一括処理に特化したPythonライブラリであり、各種化学計算ソフトウェアの入力ファイル作成、実行、出力ファイル解析を簡便に実施することができる。ACCeLの応用範囲は多岐にわたり、開発当初想定していた反応性予測以外にも、新規天然物のスペクトル計算などにも応用可能であった。研究期間全体を通じて、DFT計算に基づく新規天然物の構造推定に関連する約10報の論文(本年度は内1報)を報告した。また、天然物合成における反応機構解析として、約5報の論文(本年度は内2報)を発表した。ACCeL(開発段階のプログラム群を含む)の、多数の立体配座を効率的に扱うことのできる利点を最大限に活用することで、迅速かつ正確な計算解析が可能であった。特に反応機構解析では、これまで十分に着目されてこなかった、遷移状態における配座多様性に関する議論を展開することができた。以上の論文発表により、本研究課題で開発したACCeLの汎用性と有用性を示すことができたと考えている。また、第二の目的である、ACCeLを用いた天然物合成の効率化については、まだ論文化には至っていないものの、既に全合成を達成している。今後は、本研究課題を通して開発したACCeLを用いて、さらなる応用展開を目指したい。
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