研究実績の概要 |
本研究では, カルベン配位子を有する新規異種二核金属錯体の合成法を開発するとともに, ほとんど未開拓分野であるその触媒機能開拓を目指し研究を行った. まず初めに, カルベン配位子の前駆体であるエステル部位を有するトリアゾリウム塩の合成を行った. アニリンから1段階で合成可能なトリアゼンとプロピオール酸メチルとの酸化的[3+2]環化付加反応によりメトキシカルボニル基を有するトリアゾリウム塩を高収率で得た. また, 本反応は不活性ガスを必要とせず, 大スケール(10 mmol)で行うことができることを見いだした. 続いて, 合成したエステル部位を有するヨードトリアゾリウム塩とt-BuOKとの反応によって, 脱プロトン化と炭素-炭素結合開裂が進行し, その後に分子性ヨウ素と反応させることでジヨードトリアゾリウム塩がほぼ定量的に得られることを見いだした. この結果は, 中間体としてジカルベン中間体が発生していることを示唆するものである. なお, ジヨードトリアゾリウム塩の同定は, 1H NMR, 13C NMRおよびマススペクトルによって行った. 今後は, 様々な典型金属および遷移金属の塩とジカルベンとの反応を検討し, 異種二核金属錯体の合成を達成する. 特に, イリジウム-アルミニウム含有異種二核金属錯体の合成に取り組み, これらの金属が協奏的に機能することで実現される位置選択的なボリル化反応の開発を目指す.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジヨードトリアゾリウム塩がほぼ定量的に得られたことから, ジカルベンが反応系中で発生していることが示唆されている. また, その原料であるメトキシカルボニル基を有するヨードトリアゾリウム塩がグラムスケールで合成できることを見いだしている. これらのことから, ジカルベンと遷移金属塩および典型金属塩との反応検討を行う下地が揃ったため, 本研究は順調に進んでいると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
まずはジカルベンと遷移金属塩および典型金属塩との反応を効率的に進行させる反応条件の検討を行う. 特に, C-H活性化を促進するイリジウムおよびルイス酸性が高いアルミニウムを含む異種二核金属錯体の合成を検討する. 目的の錯体はNMR, マススペクトル, およびX線端結晶構造解析によってその合成を確認するとともに, 構造的特徴を明らかにする. さらに, 合成した異種二核金属錯体の触媒機能をピリジンのC-Hボリル化反応をモデルに評価する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していたより早く, メトキシ基を有するトリアゾリウムの合成法が確立できたため, 使用額を比較的抑えることができた. 一方, 令和3年度は様々な異種二核金属錯体の合成にも取り組むため, 試薬代や溶媒代などの消耗品費が多くなることが予想され, 次年度使用額はそれらの経費に充当する.
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