研究実績の概要 |
本研究では、フェノールを触媒として用い、Electron Donor-Acceptor (EDA)錯体を経由した、可視光駆動型一電子移動(SET)および水素原子移動(HAT)を組み合わせた反応系の開発を目的とした。フェノールとアリールハライドのEDA錯体からアリールラジカルを利用することによって、EDA錯体を経由する一電子移動(EDA-SET)とHATを組み合わせた光反応系を見出すことに成功した(J. Org. Chem. 2022, 87, 15499-15510.)。すなわち、各種アルカンおよび電子不足芳香環に対し、フェノール-アリールハライド錯体の存在下可視光を照射することで、炭素-炭素結合形成が進行した生成物が得られることを見出した。また、種々の実験的手法および理論科学的手法によって、フェノール-アリールハライドのEDA錯体が、ハロゲン結合を介して形成していることを確認した。 一方で、フェノールの代わりにベンゼンチオールを用いた時に、EDA-SETにより生じたチイルラジカルとアルキルラジカルが反応したスルフィドが得られることを報告した (ACS Org. Inorg. Au 2021, 1, 23-28.)。また、本反応系を適用することによって、ホスフィンオキシドを用いることによる可視光駆動型炭素-リン結合形成反応への展開も見出した。 これらの反応のようなEDA-SETとHATを組み合わせた光反応系はこれまでに報告がなく、様々な反応系への応用が期待できる。 さらに本反応を進める中で、SETとHATを組み合わせることによる、軸不斉ジアミンのラセミ化反応を見出すことにも成功した。
|