研究課題/領域番号 |
20K15288
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
金本 和也 中央大学, 理工学部, 助教 (90849100)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | イミノペプチド / 環化付加反応 / 銅触媒 / ペプチド修飾 / N末端修飾 / クリック反応 |
研究実績の概要 |
ペプチド構造は,タンパク質を構成する基本構造であり,生命科学分野において重要な役割を果たしている.そのため,改変タンパク質の治療薬への利用,プローブによる生命現象の解明などの目的で,ペプチド修飾技術の開発が精力的に行われている.しかし,現在のタンパク質修飾技術は,さまざまな位置のアミノ酸をランダムに修飾して混合物を与えるなどの課題を抱えており,最近の臨床研究において大きな問題となっている. これに対して近年,数が少なく,機能にも影響を与えにくいN末端の修飾が注目を集めており,最近,イミダゾリジノン環を形成する先駆的な方法が開発された.しかし,脱離を起こしやすく,また一部の隣接残基は利用できないため,これらの課題を克服できる新たな手法の開発が望まれている. これに対して本研究課題では,アゾメチンイリド発生の構造的要件に注目し,N末端で選択的に強固なC-C結合を形成する手法の開発に取り組んでいる.アゾメチンイリドの発生には,同一炭素上に無置換アミノ基とカルボニル基を有する必要があることから,求核性の高いリシン由来のアミノ基や,内部のアミド基と区別して変換できると考えた. 検討の結果,銅触媒を用いることで,イミノペプチドの末端における1,3-双極子環化付加反応が,完璧なジアステレオ選択性かつ定量的に進行することを明らかにした.加えて,本反応は,アルキンや不飽和ケトンなどとは反応性を持たず,見分けて変換できることが明らかとなった.これを利用して,アルキン部位を併せ持ったマレイミドを用いる1,3-双極子環化付加反応と続くクリック反応(Huisgen環化反応)によって,ペプチド-デオキシチミジンハイブリッド分子の合成に成功した.さらに,塩基やアルデヒド部位のチューニングにより,アミノ酸残基の選択性や3成分反応への展開が行える萌芽的な知見も得られており,今後はこれらの検討も進めていく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題では,アゾメチンイリドの発生には同一炭素上に無置換アミノ基とカルボニル基を有する必要があることに注目し,求核性の高いリシン由来のアミノ基や,内部のアミド基を反応させることなく,N末端で選択的にペプチド修飾が行えると考え検討を行っている. これまでの検討において,銀触媒や銅触媒を用いる系において,定量的に反応を進行させられる条件を見出しており,特に,銅触媒を用いる系では単一のジアステレオマーのみが選択的に得られることが明らかとなっている.現在銅触媒系について詳細な検討を実施しており,様々なアルデヒドを用いて反応を行えることが明らかとなっている.そのため,様々な機能性分子を配置したアルデヒドにも利用できると期待される.また,電子不足オレフィンとしては,マレイミド類を用いると定量的に反応が進行する一方で,α,β-不飽和ケトンやアルキンを用いる場合には全く反応が進行しないことから,マレイミド部位と,α,β-不飽和ケトン部位やアルキン部位などを一体化させた試薬を用いることで,今回開発した環化付加反応をHuisgen環化反応などと組み合わせた逐次合成に利用できることが示唆された.実際にこれらの試薬の合成と,逐次変換に成功している.これらの結果に加えて,反応条件を変えることで,三成分での反応や,グリシン末端選択的な変換とグリシン以外での末端でも利用できる反応へと使い分けられる予備的結果を得ており,今後はこれらの知見を掘り下げていく. 以上のように,当初の設計通りの選択的・効率的な分子変換法の開発のみならず,逐次変換を可能にする新たな試薬の開発,反応に必要な基質の構造的要件など,さらなる展開が期待される知見が多く得られており,当初の計画以上に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討結果をもとに,イミノペプチドとマレイミドを原料とするN末端選択的な1,3-双極子環化付加反応について検討を進める. まずはグリシン末端選択的な反応について体系的に明らかにする.テトラジン,不活性オレフィン,蛍光分子存在下でも反応が阻害されることなく進行し,これらの機能分子の構造も損なわれないことを示す.これらの結果をもとに,これらの機能分子を本反応を用いてペプチドに導入する.加えて,グリシン以外のアミノ酸残基をN末端に有する複数のペプチド存在下において,グリシンを末端に有するもののみを選択的に変換できることを示す. 続いて,アルデヒドの構造要件,反応条件を精査し,グリシン以外を末端に有する場合の反応や三成分での連結反応の開発に取り組む.これまでの検討で既に,ヒドロキシ基やピリジル基を有する場合に三成分反応が促進される知見や,塩基のチューニングによってグリシン以外の末端アミノ酸が利用できる萌芽的な知見が得られており,これらの知見をさらに掘り下げる.最終的には,三成分でのカップリングができ,かつ末端残基に関わらずN末端を修飾できる手法として,グリシン選択的な反応と相補的に使い分けることを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
少額(2476円)の繰越が発生したが,概ね計画通り推移している.
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