チオフェン骨格同士が連結したポリチオフェンは、有機電子材料として重要な骨格であるが、これまで副生物を伴うカップリング(環同士の連結法)という単一の方法論のみに頼られていた。そこで本研究では[2+2+1]環化(環構築を伴う連結法)による新機軸のポリチオフェン合成法創出に挑戦した。 具体的には、アルキン(三重結合分子)と単体硫黄(S8)からチオフェン環を形成しながら原子効率100%でポリチオフェンを与える、新規触媒反応([2+2+1]環化)の開発を目標とし研究を行なった。 この素反応の触媒系を探索するため、「2分子のアルキン」と「1分子の単体硫黄」による3成分反応から、「同一分子内に2つのアルキンを有する基質(ジイン)」と「単体硫黄」との2成分反応へと次元を落とすことで、より効率的に活性触媒の調査を遂行できると考えた。 本研究期間においては、まず、基質であるジインの簡便かつ一般的な合成法開発を行ない、市販の汎用試薬から1-2工程でジイン誘導体を合成できる手法を確立した。この合成法を用いて、立体的あるいは電子的性質の異なる様々なジイン誘導体を調製した。次に、合成した種々のジインを用いて単体硫黄との[2+2+1]環化付加反応の検討を行なった。触媒前駆体や配位子、添加剤、反応溶媒など様々な反応条件を調査したところ、いくつかの触媒条件において、想定通りのチオフェン形成反応が進行することが明らかになった。特に、鉄錯体触媒を用いた特定の条件下では、最高収率約70%で対応するチオフェンが生成することを見出した。
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