生物活性分子や天然物に頻出するエーテルC-O結合を、温和な条件下で均等開裂できれば、極性機構では得ることの難しい化合物群を提供できると期待される。本研究では、通常求電子剤として振る舞うエーテル類から、求核的なアルキルラジカル種を生成する反応の開発を目指した。エーテル類のC-O結合開裂反応はこれまでに報告されているが、適用可能な基質は大きな環歪みをもつエポキシドに限られていた。本研究では、Zr-O結合の高い結合エネルギーに着目し、新たに開発したジルコノセン/可視光レドックス協働触媒系を用いて、環歪みのないエーテル環の開裂に挑んだ。 本年度は、昨年度見いだしたアルキルクロリドのC-Cl結合開裂反応に関して研究を進めた。論文投稿に向け、反応条件最適化、基質適用範囲の調査、反応機構解明に着手し、論文採択に至った。また、テトラヒドロフランのC-O結合開裂反応が一部進行することも見いだした。 1) エポキシドのC-O結合開裂反応:チタノセンを利用した反応とは異なる位置選択性で、エポキシドのC-O結合が開裂することを見いだした。昨年度論文を投稿し、現在は公開済みである。 2) アルキルクロリドのC-Cl結合開裂反応:ベンジルクロリドやα-クロロカルボニル化合物ではない、不活性なアルキルクロリドのC-Cl結合開裂を達成した。一、二および三級のアルキルクロリドに適用でき、C-Cl結合開裂により生じたラジカルは炭素-水素および炭素-ホウ素結合形成に利用できた。天然物や医薬品を含む様々なアルキルクロリドが本反応で変換可能であった。 以上、本研究ではジルコノセン/可視光レドックス協働触媒系を世界に先駆けて開発することに成功した。本触媒系がC-O結合開裂反応が、他の結合開裂反応にも適用できることを示し、研究を大きく進展させることができた。
|