研究課題/領域番号 |
20K15293
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉田 健文 東北大学, 理学研究科, 助教 (40866472)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 錯体化学 / 分子磁性 / ガドリニウム / 白金 / ヘテロ金属錯体 |
研究実績の概要 |
本研究では、Gd-Ptヘテロ金属錯体のGd-Ptイオン間のドナーアクセプター相互作用の分子磁性への影響を調査し、今後の磁性材料開発に向けた重要な知見を得ることを目的に研究を行った。以下二つのアプローチを示す。 1:Gd-Pt錯体の合成と遅い磁化緩和の発現の調査、2:実験及び理論計算によりGd-Pt相互作用の定量化を行う。 1:新たにGd-Pt錯体を合成し、遅い磁化緩和を示す分子磁石であることを明らかにした。これまでGd錯体で遅い磁化緩和は36 Kまでしか観測されてこなかったが、今回、45 Kまで観測することに成功した。 2:二次の摂動論を用いPt-Gdのd-f相互作用の定量化することに成功した。配位子場分裂に比べて一桁小さい値だが、f電子の電子状態を決定するうえで摂動としては無視することができない。これまでのf電子系単分子磁石の先行研究では、配位子場による静電場のみを考慮し磁性の理論予測をしていたが、本研究ではd-f相互作用による影響を示唆する重要な結果が得られた。さらにモデル計算により配位子の電子状態が相互作用の大きさに影響するという結果も得られた。単結晶を用いたXAFS測定では、スペクトルの角度依存性が観測され、相互作用を実験的に証明する手法として今後有用であると考えられる。また、Gdイオンをほかのランタノイドイオンに置換した際に角度依存性の違いがみられた。今後は複数軸による単結晶XAFSを測定を行うことで三次元的な相互作用の可視化も可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新たな発見などにより、当初の計画から修正を行ったが、研究は全体的に順調に推移している。 Pt-Gdのd-f相互作用の定量化やGd錯体の遅い磁化緩和の観測に成功した。 1:これまでGd錯体で遅い磁化緩和は36 Kまでしか観測されてこなかったが、今回、45 Kまで観測することに成功した。 2:二次の摂動論を用いPt-Gdのd-f相互作用の定量化することに成功した。配位子場分裂に比べて一桁小さい値だが、f電子の電子状態を決定するうえで摂動としては無視することができない。 単結晶XAFSの測定やその他の実験データから、Ln-Pt相互作用にLnイオンの違いにより相互作用の空間的強弱の違いがあることが分かった(Ln:ランタノイド)。この結果は当初想定していなかったものであり、新たな発見といえる。またモデル計算により、配位子の置換基効果があることが示された。この違いも摂動としては無視できないものであり、実際の磁性の変化を確認していく必要がある。以上のように合成、相互作用の定量化、モデル計算の手法を確立し今後に向けた方針が定まった。
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今後の研究の推進方策 |
配位子の置換だけでなく、Lnイオンの違いも相互作用の変化に大きく効いてくることが分かった。今後は置換基を導入した配位子や異なるLnイオンを用い錯体をさらに合成し、相互作用の定量的違いや磁性の変化についてさらなる検討を行っていく。また、社会情勢により先送りしたCe錯体の酸化還元による相互作用の変化についても、Ce-Ln錯体の電気化学的安定性や電解条件での磁性測定などを行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた出張を伴う測定実験とその時の施設利用費の執行を社会情勢もあり、執行を見送った。計画のプロセスの先送りと前倒しを行ったため研究全体としては順調に推移しているが、執行予定金額として差額が生じている。
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