研究課題/領域番号 |
20K15297
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
織田 晃 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (80762377)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | オキシル / ガリウム / ゼオライト / イオン交換サイト / 生物模倣 |
研究実績の概要 |
活性酸素種である原子状酸素ラジカルアニオン(オキシル)はメタン部分酸化反応など挑戦的酸化反応の重要中間体として認識されている。オキシルの能動的創出や解析に関する研究が強く望まれているが、オキシルの高い反応性によってオキシル単離や利用は未だ困難である。 そのような背景に反して、申請者はゼオライト反応場を用いてオキシルの創出が可能であることを見出した。先行研究ではゼオライト細孔内に存在する一価イオン交換サイト上で原子状Zn(II)にオキシルを配位させることに成功した。本年度では、二価イオン交換サイトを用いてGa(III)にオキシルが配位したGa(III)-oxylの単離に成功し、それの状態解析ならびに反応性評価に成功した。この研究を拡張させ、CdやInといった4周期金属-オキシル結合の単離も可能になりつつある。金属-オキシル動態をab inito molecular dynamics simulation (AIMD)で解析し、固体表面上の金属-オキシル動態の可視化にも成功した。オキシル前駆体としてのオゾニドの状態についても17O ESRとDFT、AIMDシミュレーションを併用し解析し、C2v対称性を有する平面四角形局所構造を有することを明らかにした。生物酵素活性中心として知られるCuO2Cuサイトの単離にも成功した。このサイトは反応過程でオキシルあるいは類似酸素ラジカルを創出する可能性を秘めた化学種である。多核金属イオン上でも酸素ラジカルの創出が可能となりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたGa(III)-oxylの単離と状態解析、反応性評価を終えた。オキシルは150 Kというごく低温でさえ、COをCO2へ酸化するといった驚くべき反応性を有することも明らかにした。更に、4周期金属へ研究を展開し、新たな金属-オキシルの化学までもが明らかになりつつある。電子状態を考慮したab inito molecular dynamics (AIMD) シミュレーションを併用し、有限温度における金属-オキシルの動態のモデル化も達成し、当初予定していた以上に、金属-オキシルの化学的性質の理解が進んでいる。 オキシルの前駆体であるオゾニドの研究においても進展があった。17O ESR解析とDFT計算の併用によって局所構造の同定に成功した。この局所構造はC2v対称性のZn-O-O-O平面四角形構造を特徴とする。このような局所構造は室温でも安定であることをESR測定とAIMDによって明らかにした。 生物酵素活性中心として知られるCuO2Cuサイトの単離にも成功した。このサイトは反応過程でオキシルあるいは類似酸素ラジカルを創出する可能性を秘めた化学種である。多核金属イオン上でも酸素ラジカルの創出が可能となりつつある。 これらの研究成果はJ. Phys. Chem. C (二報)、Inorg. Chem. Front.(一報)、J. Phys. Chem. Lett.(一報)、ACS Catal.(一報)に採択された。 一方で、オキシルのメタンに対する反応性に関して、研究の進捗が芳しくない。メタンのC-H結合の活性化は容易に起こることを確認できているが、その後のメタノールとしての脱離が律速となってしまい、触媒活性点として利用できていない。メタノールとしての脱離過程では金属のレドックスが必要であり、金属中心をよりレドックス活性の高い元素へ置換することが今後の課題であると認識している。
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今後の研究の推進方策 |
① オキシルならびにオゾニドの単離、状態解析、反応性評価の研究は順調に進んでいるため、本年度も昨年度と同様に継続して研究を進め、金属-オキシルの化学の発展に貢献したい。② 当初予定していなかった内容だが、実験データを基礎として構築したAIMDモデルを用いた金属-オキシル動態の研究も世界に先駆けて行う。オキシル動態の解析を通じて、固体表面上でどのようにオキシルが安定化しうるのかがより鮮明になり、オキシル機能をもつ不均一系触媒の設計指針が得られると期待する。③ 金属中心をよりレドックス活性の高い金属元素に置換することで、メタン部分酸化触媒として機能する金属-オキシルサイトを創れることが予想されている。金属元素の自在変換を志向した金属-オキシル結合の新たな創成手法の開発も目指す。
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