研究課題/領域番号 |
20K15298
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
栗原 拓也 金沢大学, 物質化学系, 助教 (50858272)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 金属-有機構造体 / ガラス / 固体NMR |
研究実績の概要 |
金属イオンおよび有機配位子が配位結合によって構成する金属-有機構造体(MOF)の一部がガラス化することが近年見出された。MOFガラスは一部の融点を持つMOF結晶に対し、加熱で液体状態にしたのち急冷することで作製されるほか、ボールミルなど機械的なエネルギーの印加によってガラス化するものがあることも報告されている。ガラス特有の成形性や機械的強度、透明性など、これまでのMOF結晶にはない材料特性からMOFガラスは注目されているが、どのような構造のMOFがどういったメカニズムで融解・ガラス化するのかは明らかでない。ガラス化するMOFの探索や新規合成、材料展開において、MOFのガラス化メカニズムを理解することは重要である。本研究では、分子の静的・動的な局所構造を解析できる固体核磁気共鳴分光法(NMR)を軸に、MOFのガラス化のメカニズムの解明を試みた。 本研究の遂行において、異なるアニオン性配位子SiF6^(2-)およびTiF6^(2-)を持つ同形構造体[Zn(SiF6)(bpp)2]および[Zn(TiF6)(bpp)2] (bpp=1,3-bis(4-pyridyl)propane)を新規に合成し、ボールミルによって前者のみがガラス化することを見出した。固体NMRによる構造解析を行ったところ、両者は同形構造であるにもかかわらず、SiF6とTiF6の運動性に大きな違いがあることが明らかとなった。具体的には、SiF6はZn-F配位結合が一度切れて再配向運動をし、別のFが新たにZnに配位するという特異な運動性を有しており、一方TiF6に運動性は見られなかった。また有機配位子bppが柔軟性を持つことも明らかとなり、Zn-F配位構造の柔らかさも合わせた[Zn(SiF6)(bpp)2]の構造の高い柔軟性がガラス化に大きく寄与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
元々は融解しガラス化するMOFのみに焦点を絞って研究を行う予定であったが、申請者が研究課題申請後に所属機関が変更となったことや、加えて新型コロナウイルスの流行による出張の規制によって、当初の計画通りにMOFの融解状態に対する研究を進めることができなくなった。しかしながら同形構造のMOF 2種を新規に合成し、一方がボールミルによってガラス化することを見出したことや、ガラス化しないもう一方のMOFと合わせて固体NMRによる局所構造の解析を行ったことで、配位構造や配位子の柔軟性がMOFのガラス状態の形成に大きく関与することを明らかにできた。このように、計画通りに進めることはできなかったが、ガラス化するMOFを新たに作製し、ガラス状態の形成に重要となる要素を見出すことができたため、研究の進展としては順調なものであると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は、当初の計画にあったZn-リン酸-アゾール系分子から成るMOFに注目して融解・ガラス化のメカニズムの解析を行う。1年目に購入した固体NMRプローブのスピニングモジュールを用いて専用のプローブを作製し、固体高分解能NMR測定を実現することで、解析の難しいガラス状態のMOFの構造解析を効率的に進める。また、申請者の以前の所属であり、Zn-リン酸-アゾール系MOFを開発し研究している京都大学の堀毛准教授と連携することで、合成や固体NMR以外の方法による構造評価も行う。これまでに得られた知見から、特に配位子の運動性や金属イオン周りの配位構造の柔軟性に着目して構造解析を進め、MOFの融解やガラス化に関する更なる知見を得ることを目指す。
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