研究実績の概要 |
金属-金属結合を有する複核金属錯体は,金属間相互作用や多金属中心による協奏的な反応性,特異な立体構造などに由来して単核金属錯体にはない興味深い反応性の発現が期待できるが,これを精密に制御して合成する方法論は単核錯体の合成と比較して困難を伴う.本研究では,最も単純な複核錯体として二核錯体に着目し,新規にビスホスフィノキノリンを配位子として設計することで二核錯体が効率的に合成できるのではないかと着想し,配位子の合成と種々の遷移金属種との錯形成反応を検討した. 設計した2,8-ビスジフェニルホスフィノキノリン配位子は既知化合物である2,8-ジブロモキノリンから二段階で収率よく合成可能であることを見出した.この合成したキノリン配位子に対して,白金(II)錯体との錯形成を検討したところ,白金上の配位子の嵩高さによって配位挙動を制御できることがわかった.即ち,嵩高いトリメチルシリルメチル白金(II)種との反応では,キノリン配位子は,PNP型ピンサー配位子として振る舞い,カチオン性単核白金錯体を選択的に生成した.X線結晶構造解析により,2位のホスフィン部位は白金中心への配位に伴ってリン-炭素-窒素からなる結合角が有意に小さくなり,歪みを生じていた.この歪みの解消を駆動力として,三座配位から二座配位への変化が容易に進行し,二核錯体を与えることが可能になる.実際,嵩の小さなメチル白金(II)種とキノリン配位子との反応では,2位のホスフィン部位が別の二つ目の白金中心に配位することで,白金-白金結合を有する二核錯体を選択的に与えた. 白金以外の金属種との錯形成を検討したところ,金(I)錯体との反応では配位子:金の比が,1:1または1:2の二種類の錯体が得られた.ルテニウム錯体との反応では,PNP型ピンサー錯体が選択的に生成した.
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