研究課題/領域番号 |
20K15301
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
三澤 智世 上智大学, 理工学部, 助教 (30824726)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 酸素二重架橋錯体 / オキシド一重架橋錯体 / カルボナト架橋錯体 |
研究実績の概要 |
ふたつの酸素がふたつの金属間を架橋した「酸素二重架橋」部位を有する錯体や酵素は、自然界・生体内で広く物質変換反応の触媒として機能している。たとえば水の酸化反応を担う酸素発生複合体(OEC)、メタンの一酸素化を担うメタンモノオキシゲナーゼ(MMO)などが挙げられる。第一周期遷移金属を用いた高活性な触媒開発に注力されている一方で、本研究課題ではルテニウムを中心金属とする「酸素二重架橋」モデル錯体の創製と物性評価に着目している。第二周期遷移金属のルテニウムを用いた錯体は、その定義上は置換不活性に分類される一方で適度な置換反応性が期待され、反応過程や反応中間体(中間的な電子構造)の観測により適する。なお、金属まわりの構造の支持と静電的性質の制御を行う配位子として、構造的な柔軟性と静電的性質の観点から、三座のエチル(ビス2-ピリジルメチル)アミンを用いた。 ルテニウム間を酸素がひとつ架橋した二核錯体の塩基性水溶液中での反応により、目的とする「酸素二重架橋」錯体の生成が示唆された。生成物の電気化学的、分光化学的検討により物性評価を行っている段階であるが、Ru(III)-Ru(IV)の電子状態を有する「酸素二重架橋」錯体の単離と物性評価は世界初であり、完全な同定に向けた検討を続けている。 「酸素二重架橋」錯体の合成検討における別ルートとして、酸素ふたつに加えて炭酸イオンがRu間を架橋した「カルボナト錯体」の合成と酸との反応について検討を行った。酸性条件下ではカルボナト配位子が脱炭酸することを想定していた一方で、本錯体においてはプロトン化をともなってもなお錯体上で安定化することを明らかにした。したがって金属に配位したカルボナト配位子の挙動としては興味深く先駆的な知見となった一方、「酸素二重架橋錯体」の合成原料としては適さないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ルテニウム間を酸素がひとつ架橋した二核錯体の塩基性水溶液中での反応により、目的とする「酸素二重架橋」錯体の生成が示唆された。生成物の電気化学的、分光化学的検討により物性評価を行っている段階であるが、Ru(III)-Ru(IV)の電子状態を有する「酸素二重架橋」錯体の単離と物性評価は世界初であり、完全な同定に向けた検討を続けている。 「酸素二重架橋」錯体の合成検討における別ルートとして、酸素ふたつに加えて炭酸イオンがRu間を架橋した「カルボナト錯体」の合成と酸との反応について検討を行った。酸性条件下ではカルボナト配位子が脱炭酸することを想定していた一方で、本錯体においてはプロトン化をともなってもなお錯体上で安定化することを明らかにした。したがって金属に配位したカルボナト配位子の挙動としては興味深く先駆的な知見となった一方、「酸素二重架橋錯体」の合成原料としては適さないことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
ルテニウム(Ru)間を酸素がひとつ架橋した二核錯体の塩基性水溶液中での反応生成物(「酸素二重架橋」錯体)の同定と物性評価を進める。具体的には、元素分析、単結晶X線構造解析および磁気測定、および電気化学、分光化学測定に適する結晶の生成について検討する。 上記と平行して、「酸素二重架橋」構造上に酢酸イオン(アセタト)あるいは硝酸イオン(ニトラト)が架橋した錯体を出発原料とした「酸素二重架橋」錯体の合成ルートの検討にも着手する。より高純度・高収率かつ簡便な合成法の検討は価値があると考えているためである。「アセタト」錯体においては、予備的な結果から塩基性水溶液中での構造変化が示唆されたため、塩基性条件での検討に注力する。一方で「ニトラト」錯体においては、酸性条件下において硝酸イオンの変換をともなう構造変化が示唆されたため、pH 1.5程度の酸性条件下での反応検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として3点挙げられる。(i) 購入した「紫外・可視分光光度計」が当初想定した額を大きく下回ったこと、(ii) 参加予定であった2件の国際学会についていずれも渡航・参加ができない状況であったこと、(iii) 4~6月の間の大学への入構制限により、実験に係る費用が当初の見込みを下回ったことである。 主な使用計画は以下のとおりである。(i) 物品費(錯体原料、電気化学・分光化学測定、および反応検討に必要となる消耗品)、(ii) 人件費(研究協力者への謝金)。
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