本研究では、2つの鉄間を2つの酸素が架橋(「二重架橋」)した金属酵素の活性点の模倣構造を、ルテニウム(Ru)により創製した。八面体構造の支持のため、これまでに系統的に用いてきたアルキルビス(2-ピリジルメチル)アミン三座配位子を用いた。 Ru(III)-Ru(IV)錯体を原料として、塩基性水溶液中で原料のクロリド配位子の解離を誘起することによる合成法が最適であった。生成物のRu中心の電子状態は形式上III価-IV価(実質3.5価-3.5価)であり、末端にアクアおよびヒドロキシド(OHn)配位子を有する。様々な合成ルートの検討の結果、Ru間を1つの酸素が架橋した(「一重架橋」)生成物の水溶液中での合成が最適であった。分光化学測定および脱水系での電気化学測定による物性評価を行い、プロトン付加・解離挙動(pKaの決定)および酸化還元電位を明らかにした。(アクア、ヒドロキシド)配位子の組み合わせによる静電的性質は、本系においては既報の酢酸イオンや炭酸水素イオン配位子と同程度であることを明らかにした。理論計算も併せて行い、フロンティア軌道は酸素「二重架橋」構造上に非局在化しており、酸化還元サイトは「二重架橋」コアであることがわかった。 生成物の精製はアセトンにより可能である一方、アセトン中で長時間経過後には構造変化をともなうことが示唆された。Ru中心上のヒドロキシド(OH-)配位子の求核性等によるものと考察している。他の有機溶媒中での反応性の検討結果も踏まえ、基質酸化反応の検討にあたり脱水系が必要であり、数日間であれば溶媒の関与しない酸化反応の検討に値するといえる。
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