研究課題/領域番号 |
20K15303
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
中薗 孝志 立教大学, 理学部, 助教 (40802880)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 人工光合成 / コバルト錯体 / 酸素発生 |
研究実績の概要 |
持続可能社会の実現に向け、再生可能エネルギー生産技術として水の可視光分解は大きな注目を集めている。この技術の達成には目的物である水素を得るための水素発生触媒と水を酸化する酸素発生触媒の開発が必要である。通常これらの反応にはそれぞれの反応に適した触媒が必要となるが、コバルトポルフィリン錯体やコバルトフタロシアニン錯体はその両方の反応に対して触媒活性を有することが知られている。しかし、その反応過電圧は比較的高く、改善の余地がある。そこで本研究ではこの両方の反応をより低過電圧で促進する触媒の開発に取り組んだ。触媒には多電子の授受を高効率かつ安定的に行うことが出来る、二重N-混乱ヘキサフィリンを配位子に有するコバルト錯体(Co2DNCH)を用いた。比較には同じ置換基を有するコバルトポルフィリン錯体を用いた。 Co2DNCHの酸素発生触媒能は、光増感剤として[Ru(bpy)3]2+、犠牲酸化試薬に過硫酸S2O82-を用いた光酸素発生反応溶液中において評価した。Co2DNCHの酸素発生に対する最高の触媒回転頻度(TOF)は3.9 s-1、触媒回転数(TON)は1200であった。酸素発生に対する光反応量子収率を測定したところ、その値は60%であった。一方、同条件下で、コバルトポルフィリンのTOF及びTONはそれぞれ0.53 s-1、164であった。また、Co2DNCHの触媒修飾電極を作成し、電気化学的水素発生能について評価したところ、コバルトポルフィリンと比較してその水素発生反応過電圧は100 mV低下することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究により、Co2DNCHは酸素発生反応、水素発生反応に対し、いずれも高い触媒活性を示すことが明らかとなった。特に、光酸素発生においては、既報のコバルト錯体触媒と比較しても非常に高い活性を示すことが明らかとなった。また、水素発生においても高い活性を持つことが明らかとなった。この様に、当初の触媒活性評価においては順調に計画を遂行できていると判断している。現在、当初計画にあった、この錯体に水溶性置換基を導入した新規錯体の合成を進めている。また、反応機構の解析も平行して実施している。
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今後の研究の推進方策 |
現在、Co2DNCHが高い酸素発生、水素発生に対する高い触媒活性を示す要因を明らかにするために必要な触媒反応機構の解析がまだ不十分である。Co2DNCHは水に溶解性を示さないため、機構解析における手段が限られている。そこで、新規水溶性錯体を合成し、その反応機構を明らかにしたいと考えている。従って今後は、新規錯体の合成、触媒反応機構解析を中心に行っていきたいと考えている。反応機構解析にはDFT計算やラマン分光測定、速度論的同位体効果の検討などを行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
Co2DNCHの触媒機能評価が当初計画以上に進んだため、DFT計算による反応機構解析のためのHPCシステムズ製ハイパフォーマンス・コンピュータ一式を購入するため、前倒し請求を行った。しかしながら、同社より新規機種の販売の見込みがあるため、現在まで購入できていない。現在は前年度購入したものでDFT計算を行っており、発売後購入する見込みである。
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