研究課題/領域番号 |
20K15306
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
梅山 大樹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 独立研究者 (00821480)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 欠陥導入 / 触媒活性 |
研究実績の概要 |
M(pz)[M'(CN)4]で表されるホフマン型三次元配位高分子(M = Fe2+, Co2+, Ni2+; M' = Pd2+, Pt2+; pz = ピラジン)は、配位高分子の粉末を合成後メタノールに浸漬することで部分的な配位子交換が起こり、Mイオンの近傍で欠陥構造を生成する。欠陥濃度は金属イオンM、M'の組み合わせで制御可能であり、最小でおよそ3%(Co(pz)[Pt(CN)4])、最大でおよそ30%(Fe(pz)[Pt(CN)4])の配位子置換が起こることがわかった。SEMによる観察の結果、配位高分子の粉末の粒径に関係なく、同程度の濃度で配位子の交換が起こることが判明した。これより、金属イオンMと配位子pz間の結合エネルギーが欠陥濃度を決める主要な因子であり、交換は粒径に関わらず比較的速やかに平衡に達することが示唆された。Fe(pz)[Pd(CN)4]では約273 KにおいてFeイオンが高スピン(HS)と低スピン(LS)の状態を取れることから、スピン状態が配位子交換に及ぼす影響についても検証した。この結果、LS状態では欠陥生成が大幅に抑制され、HS状態の20分の1程度になることが明らかになった。LS状態では結合性のt2g軌道がより多く占有され、Feイオンとpz 配位子の結合が強くなったためと考えられる。これは比較的弱い力である磁気相互作用を介して欠陥濃度を制御できることを示す興味深い結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
配位高分子の組成や粒径と欠陥生成濃度の関係を系統的に比較でき、欠陥濃度と触媒活性の相関が解明できた。また、磁気中心であるFeイオンのスピン状態を介して欠陥濃度を制御できることがわかり、磁気的特性を絡めた機能開拓に向けた知見が得られた。これらの成果は同一構造を保持しながら多様な金属イオンや磁気状態をとることができるホフマン型配位高分子の特性を活かしており、不一致分解のメカニズム解明を推進することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまで検討してきた配位子交換反応をメタノール以外の溶媒についても検討し、交換反応メカニズムの理解を深める。例えば溶媒分子のpKa値や立体構造に注目し、配位子交換反応を支配している熱力学的、速度論的因子を明らかにする。これらの知見に基づいて配位子交換反応を促進、抑制し、構造中の欠陥濃度を自由に制御する。また、欠陥濃度の制御を通して触媒活性を制御することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、特に初年度の実験の遂行に影響が出た一方、PC上で可能な理論計算等による検討を推進した。二年度目は実験に注力し、研究計画に基づいた適切な予算執行に務めた。 次年度は合成や測定などのために科研費の予算を執行し、配位高分子のスピン状態を介した欠陥制御の手法を追究するための必要試薬の購入や、メスバウワー分光などの依頼測定を実施する予定である。
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