本研究課題では、多孔質シリコン基板とレーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)を組み合わせた液体の微量分析技術の開発に取り組んでいる。これまでに、多孔質シリコンを用いると、平滑シリコンの場合と比べて蒸発乾固物の信号強度が増大すること、レーザー照射位置による信号のばらつきが抑制されることを明らかにした。また、10 μL以下の微量溶液から1 ppb以下のストロンチウムを検出することに成功した。一方で、多孔質シリコン上で生成するプラズマの特性は明らかになっていない。そこで、試料の蒸発乾固を行わずに基板由来のシリコンの発光線を観測し、スペクトルの解析を行った。多孔質シリコンを用いると、平滑シリコンの場合と比べてプラズマ中のシリコンの密度や温度が高くなることがわかった。多孔質シリコンの孔を深くすると、プラズマの密度や温度がさらに上昇した。この結果は、多孔質シリコン表面の光反射率の変化と相関があった。一方で、多孔質シリコンを用いると、大気中から取り込まれる窒素原子の発光線強度が低下するという興味深い現象が観測された。これらの結果は、LIBSの信号強度増大のための指針を示すとともに、多孔質材料のレーザーアブレーションに関する新たな知見を与えるものである。そのほか、目的元素とは異なる無関係塩を高濃度に含む試料溶液の分析を試みた。その結果、目的元素は検出されるものの、無関係塩を含まない場合に比べて信号強度が低下することがわかった。また、レーザー照射位置による信号のばらつきが大きくなった。高濃度溶液の定量分析を行うためには、さらなる工夫が必要である。
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