研究実績の概要 |
5-ヒドロキシメチルフルフラール (HMF), 特に-CH2OH部分の酸化は, フラン-2,5-ジカルボン酸(FDCA)の合成に不可欠である. したがって, HMFの2,5-ジホルミルフラン(DFF)への選択的光酸化に焦点を当てた. HMFのDFFへの選択的光酸化反応に対する, 様々な種類の半導体性を有する金属酸化物のスクリーニングを行った. この結果, 金属酸化物の酸性度と触媒活性の相関が示唆され, 酸化ニオブ(Nb2O5), 酸化タングステン (WO3)で比較的良好な活性が得られた. ここで, 固体酸触媒として用いられるNb2O5を中心に, さらに金属ナノ粒子 (Au, Ag, Cu, In, Pd, Pt, Ru) を担持させることで光触媒活性の向上を試みた. この結果, Au, Ptの担持でDFF選択制の向上が確認された. さらに, Auナノ粒子のプラズモン共鳴に由来する可視光領域の光吸収を利用することで, 可視光照射 (> 430 nm)による光酸化反応を行った. この結果, HMF転化率は大きくないものの, HMFのDFFへの光酸化反応が進行することが明らかとなった. 光を用いない場合, 高温で進行するHMFからDFFへの酸化が, このAu/Nb2O5光触媒を用いることで室温で非常に高い活性 (転化率69%, 選択率92%)で進行した.この室温でのHMFからDFFへの選択的酸化が達成により, Au/Nb2O5光触媒は, 反応系に塩基を添加することで, HMFからのFDCAへの酸化反応に対しても高い活性(転化率100%, 選択率79%) を示した. 反応メカニズムの考察より, Auナノ粒子はNb2O5の斜方晶相を保持するための再酸化を促進している可能性を示唆している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Auナノ粒子担持によってNb2O5の活性が向上した理由を明らかにするため, Au以外の金属ナノ粒子(Ag, Cu, In, Pd, Pt, Ru)を担持し, 金属のスクリーニングを行った。その結果, Auナノ粒子の担持が優れた活性向上を示すことが分かった. Auナノ粒子担持によって活性向上が確認された触媒のAuナノ粒子形状を透過型電子顕微鏡 (TEM)で観察を行った結果, 小さいAuナノ粒子が活性向上に寄与することが明らかになり, Auナノ粒子のサイズ効果が示唆された. さらに Auナノ粒子のプラズモン共鳴に対する可視光照射によってもHMFからDFFへの選択的酸化反応が進行することがわかった. その他, X線結晶構造解析 (XRD)など触媒の物性評価を進めることができた. また, 適切化されたAu/Nb2O5光触媒を用いて, 室温での反応が困難であるとされるHMFからFDCAへの選択的酸化反応を達成できた. 一方で, 研究成果を論文投稿するまでに至らなかった.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度に所属機関が変更したことにより, 実験環境が変化し設置場所の確保の難航, 購入可能な実験機材に変化があった. 旅費は, 国内・国際学会の出張費に計上していた. コロナ禍により, 学会の開催形態の大半がオンライン化したため, 旅費は当初の計画よりも大幅に減額した. 令和4年度では, 学会出張を可能な限り実施し, さらに論文投稿費に割り当てる予定である.
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