近年、日本国内では水素社会実現に向けて、トルエンなどの芳香族化合物を水素化する有機ハイドライド法を用いた水素貯蔵技術の開発が行われているが、今後、一般家庭まで普及するためには装置の簡易化や利便性の良さが求められる。本研究では、水素貯蔵化合物を自己組織化単分子膜(以下SAM膜とする)として電極上に修飾することで、可燃性液体の取り扱いが不要な完全水系の水素貯蔵システムの構築を目指している。 これまで、①電子移動を妨げにくいSAM膜の膜厚の検討、②芳香族チオール化合物の種類とSAM膜の修飾分子数の比較、③水素化電解前後のSAM膜還元脱離電位の比較、について検討してきた。①では、アルキル鎖長が6以上となると可逆応答性が著しく低下することから、10Å程度の膜厚に抑える必要があることが明らかとなった。②では、ベンゼンチオール、フェニルエタンチオール、ナフタレンチオールの比較を行った。還元脱離波の電気量から、フェニルエタンチオールが他2種と比較して、最も多く電極上に修飾されていることが明らかとなった。最後に③では、フェニルエタンチオールSAM膜の電解前後の還元脱離ピーク電位の比較を行った。SAM膜の還元脱離電位は、SAM膜の分子構造によって電位が変化することが明らかとなっている。その結果、水素化電解合成前後でSAM膜の脱離還元電位が高電位側へシフトしていたことから、SAM膜末端構造のフェニル基の構造変化が示唆された。
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