研究課題/領域番号 |
20K15328
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
下山 祥弘 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 産総研特別研究員 (70859082)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | コバルト / ヘテロポリ酸触媒 / イリジウム-銅 / 水中 / 速度論的解析 / 理論計算 / 反応機構 |
研究実績の概要 |
コバルト元素を1つ置換したケギン型のヘテロポリ酸触媒を用い、過硫酸塩、炭酸塩共存下の水中において、芳香族化合物の選択的芳香環酸化を温和な条件で進行させ、有用なカルボン酸への変換を行った。炭酸塩は、水中で過硫酸との中和に作用し、触媒が安定に存在するpH領域で緩衝させる役割を示すことがわかった。また、各種分光学的測定や理論計算から、本反応の酸化活性種は六重項状態にあるコバルト(III)-オキシラジカル種であると推定され、速度論的解析により活性種の求電子性が示唆された。また、ベンゼンの酸化反応における酸化中間体の分析を行い、反応ルートを推定し、反応機構の解明を行った。 また、イリジウム-銅の異種二核金属錯体を触媒に用いて、ギ酸緩衝液中、芳香族末端オレフィンの空気酸化を行い、対応するメチルケトンを得るワッカー型の酸化反応系を構築した。この反応は、ギ酸によるイリジウム-ヒドリド錯体の生成、銅による電子的摂動、反応溶媒としての水が必要不可欠であり、ギ酸非存在下や近傍銅サイトの欠落、水系有機溶媒の使用では反応が全く進行しなくなる非常に特異的な系であった。また、この反応では、芳香環が無いアリル基や、芳香環から遠位にアリル基が置換された基質に対して全く反応が進行せず、芳香環に直接結合するビニル基だけが酸化される結果となった。反応の鍵となるのは、銅錯体部位によるイリジウム-ヒドリド種への電子的な摂動効果と、基質と触媒との芳香環部位でのスタッキングに基づく疎水性相互作用であり、各種理論計算や電気化学測定、速度論的解析から推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
温和で安価な犠牲試薬として過酸化水素を酸化剤に用いた、モデル基質のペンタフルオロフェニルスルホン酸塩のフェントン反応を基軸とする触媒的酸化を行った。硝酸鉄を触媒とし、さらに希土類の硝酸塩、ホウ酸を共存させ、上記基質の酸化における転換率や、フッ素化合物の分解から得られるフッ化物イオンをフッ素源とするテトラフルオロホウ酸イオンおよびトリフルオロヒドロキシホウ酸イオンの収率を19F NMRスペクトル測定により求めた。その結果、セリウムを除き、添加した希土類の元素記号が大きくなるにつれ、基質の転換率やテトラフルオロホウ酸イオンの収率が向上する傾向が見られた。ユウロピウムやサマリウムの塩を用いた場合には、希土類塩非添加条件よりも収率が低下する結果となった。一方、セリウム塩を用いた場合が特異的に転換率と収率が高く、この2つを組み合わせた固体触媒の開発を試みた。鉄塩を酸化セリウム上に含浸担持して調製する手法(含浸担持法)と、鉄塩とセリウム塩の水溶液にカルボン酸を添加させて調製する手法(共沈法)の2通りにより、鉄とセリウムの複合酸化物触媒を合成した。予想に反し、これらの手法で調製した触媒はいずれも本反応を進行させず、ほとんど原料回収となった。これは、鉄が存在するにも関わらず、フェントン反応自体が進行していないことも示すため、現在、フェントン反応が進行しない原因について究明しつつ、新たな複合酸化物触媒の調製方法について画策中である。
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今後の研究の推進方策 |
含浸担持法および共沈法により調製した現行の鉄/セリウム触媒をそのまま用い、反応条件を調整するだけで反応が進行するか否かを最初に検討する。反応温度だけでなく、ブレンステッド酸や塩基およびルイス酸や塩基の添加条件、超音波やマイクロ波照射による特殊な反応条件、オートクレーブによる水熱合成条件での触媒反応も検討する。一方、上記鉄とセリウム塩や、後周期の希土類元素との組み合わせに着眼し、鉄と希土類の複合固体酸化物触媒の調製方法を改良し、本反応に対し活性を示すような固体酸化物触媒を調製する。例えば、含浸担持法では、焼成条件や鉄の担持量を調整し、鉄中心と過酸化水素の反応効率や、活性種の失活過程が抑えられるような工夫を行う。また、共沈法においても、用いる金属塩の対アニオンを変更する他、焼成条件や鉄の担持量の調整、添加するカルボン酸の変更などを検討することにより、本反応が進行する適切な触媒の調整法を見出していく。一方、活性点としての鉄を、フェントン反応が進行しうるとされる他の金属(銅、マンガン、ルテニウム、イリジウム、パラジウム等)に置き換え、これらと希土類との複合酸化物で本反応が進行するかどうかも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は世界的なコロナウイルス蔓延により、国内学会のほとんどがオンラインで開催された。そのため、交通費や旅費に当たる支出が全く発生しなかった。次年度においても、同ウイルス変異株の影響から、現時点での国内の動向を鑑みると、出張に関する状況は大きくは変わらないと見られる。そのため、旅費として計上する予定だった額を用いて、小規模の反応装置の拡充を図る。具体的には、以下の3つを導入する。1つ目は、数十ミリグラムの触媒の分離のために、小型の卓上遠心分離機を購入する。2つ目、3つ目として、反応条件を水熱条件にも展開できるようにすべく、小型密封反応装置であるオートクレーブおよびその反応用の恒温オーブンを導入する。これにより、従来のスクリーニングでは到達不可能であった200度近辺の反応温度や、水熱条件で反応が可能となるため、反応条件の範囲を広め、計画をより円滑に進行できるようにする。
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