今年度は、前年度までに達成したエステル交換反応触媒開発と、ポリエチレンテレフタレート(PET)の解重合反応を発展させ、メカノケミカル法を活用することでエステル交換反応の反応速度を向上させる試みを進めた。ボールミル反応装置を用いることで、室温、15分の反応時間でPETのテレフタル酸ジメチル (DMT) への解重合反応が効率良く進行することを見出した。触媒としてナトリウムメトキシド、反応促進剤として炭酸ジメチル (DMC) を加えるメタノリシス反応であり、ボールミル反応容器としてはステンレスの粉砕ジャーを使用した。従来のフラスコを用いる実験と比較して、炭酸ジメチルの使用量を1/10以下に減らすことができ、さらに高速で反応が進行する点で新規性が高い成果である。また、PET由来のDMTを原料としたエステル交換反応にも展開し、グリセリンを原料とする新規架橋型ポリマーの開発にも同時に取り組んだ。 本プロジェクトを総括すると、グリセリンを原料とするファインケミカル合成を進める中で、エステル交換反応と炭酸ジメチルの使用によるポリオール化合物のカーボネート化が鍵となることを認識、その点について研究を深化させることができたと言える。グリセリンの誘導体であるグリシドールを用いたエステル交換反応について、実用的なポリマー担持型触媒を開発し、その触媒構造と反応メカニズムについて最先端の固体NMRを用いて詳細に検討しつつ、触媒を改良させた。この反応を、グリセリンを出発原料とする反応へと改良していく中で、炭酸ジメチルを使用する環状カーボネート化が反応制御のために有効であることがわかった。その反応から派生し、PETの解重合反応から発生するエチレングリコールを捕捉するアイデアを着想し、グリーンケミストリーの観点から有用な反応の開発に至った。
|