研究課題/領域番号 |
20K15330
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
宮田 智衆 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (10838949)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 高分子鎖 / STEM / 原子分解能観察 / 立体配置 / 立体配座 |
研究実績の概要 |
高精度な高分子材料設計を実現するには、材料を構成する高分子鎖の構造やダイナミクスを原子・分子レベルから正確に理解する必要がある。しかし、高分子のバルク内部に存在する高分子鎖はコントラストが非常に微弱であることから直接観察が困難であり、その原子レベルでの構造やダイナミクスは未だ明らかにされていない。本研究では、バルク内部に存在する高分子鎖一本の原子レベル立体構造を高コントラストで可視化する手法を開発することを目的としている。 研究初年度である2020年度は、ヨウ素原子で修飾したpolystyrene (poly(4-iodostyrene))(P4IS)の分子鎖をまずグラフェンの上に分散させた試料について環状暗視野走査透過型電子顕微鏡法(ADF-STEM)観察を行い、ヨウ素原子と対応する輝点分布を観察することに成功した。また、この輝点分布から高分子鎖の原子レベル立体構造(立体配置および立体配座)を推定できる可能性を示唆した。しかし、長い高分子鎖の立体構造を推定することはできていなかった。 2021年度は、観察した輝点分布から長い高分子鎖の立体構造を高速に推定する手法の確立に取り組んだ。具体的には、ヨウ素原子のx,y座標のみ画像の輝点位置に固定するようにP4IS分子鎖の初期構造を多数かつ無作為に用意し、分子力学法による構造最適化を行うことで形成した最終構造のうちエネルギー的に最も安定な構造を選択することで高分子鎖の立体構造の推定を行った。さらに、この処理過程に情報科学的手法を適用することで、計算コストの点から困難であった長い高分子鎖の構造推定も高速に行うことが可能となった。当構造推定手法は本研究を円滑に進める上で不可欠かつ根幹となるものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては、高分子鎖の局所立体構造を原子レベルで可視化することを主たる目的に据えている。研究初年度である2020年度においては、ADF-STEMにより高分子鎖に含まれる重元素原子の配置を特定し、短い高分子鎖に限り構造推定できることを示した。一方、長い高分子鎖となると非常に多くの候補構造から最も適切な構造を推定することが必要となるため、高速に構造推定する手法の確立が不可欠であった。2021年度は、この構造推定に分子力学法に情報科学的手法を組み合わせることで、長い高分子鎖についても高速に構造推定することを可能とした。これらの実施内容は本研究における主要な問題を解決するものであるため、本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度においては、原子レベルで平滑なグラフェン上に存在する高分子鎖のADF-STEM観察および原子レベル立体構造解析を行った。2022年度においては、前年度に得た知見および解析手法を活用し、バルク内部に分散した高分子鎖の原子分解能観察および立体構造解析に取り組む。一方、ADF-STEMにより重元素原子の3次元分布を観察できたとしても、バルク内部に3次元的に広がった高分子鎖の局所立体構造の解析は困難な可能性が予想される。その場合には、観察された重元素原子分布からバルク内部における高分子鎖の広がりやダイナミクスを議論する。また、前年度までに使用してきた高分子よりも、重元素原子の空間分布から内部構造を解析しやすい別種の高分子を使用することも検討している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度使用額を最後の2,3万円単位単位まで使い切るよりも、次年度予算と合わせて使用した方が有効に利用できると判断したため。次年度は分子合成の外部発注等に使用する計画である。
|