柔軟な不斉分子であるヘリセンは、エナンチオマー間をらせん反転により構造変化できるという特徴を有する。一方で、MOF(金属有機構造体)は様々なガス分子を吸着・分離することが可能な多孔性材料であり、構造柔軟性に基づいた圧力刺激応答性が精力的に調べられている。そこで本研究では、らせん不斉を有する有機配位子を用いて光学活性なMOFの構築を行い、配位子部位のキラリティーや構造柔軟性に基づいた新奇な物性発現を目指した。 当初の方針では配位子に組み込んだヘリセン部位に起因した、キラル環境・外部環境に応答した構造変化、及び周期的な不斉構造によるキラル光学特性の増強などを想定していたが、MOF骨格内部ではヘリセン構造の柔軟性が制限されることから、構造と物性の相関が認められるような結果は得られていない。一方で、ヘリセン部位への不斉情報転写を目的として様々な不斉配位子を合成し、MOF構築に用いたところ、その配位子のみを含む新規でキラルなMOFや水素結合性有機構造体(HOF)を複数得ることに成功した。中にはこれまで報告されてこなかった特殊なガス吸着過程を示す物質も含まれていたことから、最終年度では得られた新規多孔性材料の性質解明研究に注力した。 柔軟なMOFの中には、圧力に応答して段階的にガス吸着量が増加するGate-Opening挙動を示すものが多数報告されており、この性質を利用すると混合ガスの効率的な分離・精製が可能となる。通常のGate-Opening挙動では、吸着と脱着のステップ数は同一か、吸着のステップ数が脱着のそれを上回るかの2種類に大別できる。一方、我々の開発したキラルMOFでは、脱着のステップ数のみが多段階となる極めて特殊な吸着過程を示すことが明らかとなった。各ステップの構造解析に成功しており、計算化学を活用した構造変化メカニズムの解明を進めている。
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