研究課題/領域番号 |
20K15334
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
権 正行 京都大学, 工学研究科, 助教 (90776618)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 高分子合成 / 超原子価 / 共役系高分子 / 光物性 / ヘテロ元素 |
研究実績の概要 |
当該研究では、典型元素錯体の配位数や種類を変え、超原子価結合、非対称構造、湾曲構造といった元素特有の構造を共役系高分子内に構築し、近赤外領域を含む高輝度固体発光、モルフォロジー変化に伴う電子物性制御、溶液・固体化学センサーとしての応用など、従来の炭素骨格では実現困難であった機能性高分子材料の創出につなげることを目的としている。当該年度では、研究計画書で提案した2つのテーマについて大きな成果を得たのでいかに記載する。 1.非対称湾曲配位構造を利用した高輝度固体発光性高分子・キャリア輸送材料の創出 13族元素であるホウ素を導入した縮環型アゾベンゼン錯体について、多数のフッ素原子を修飾したモノマーを合成した。フッ素原子の導入により、エネルギーギャップが効果的に調節可能であることを実験的・理論的に明らかにした。続けて、共役系高分子を合成するとで、溶液・固体状態ともに近赤外発光を示すことを見出し、特に固体状態での最大発光波長は1000nm付近まで到達した。以上により、フッ素置換という戦略により、発光波長やキャリア輸送性に重要なエネルギー準位を微調整可能であることを証明した。 2. 五配位構造を利用した狭バンドギャップ化と六配位化によるスイッチング効果の検討 14族高周期元素であるスズを導入した縮環型アゾベンゼン錯体を合成することにより、五配位三方両錐型の超原子価結合を利用した狭エネルギーギャップ性を示すことを証明することに成功した。さらに、配位性溶媒中においてスズが六配位化することを明らかにし、特に六配位化によって吸収・発光スペクトルが短波長化することを見出した。ジメチルスルホキシドを用いた場合は、固体状態においても溶媒蒸気にさらすことのみで五配位→六配位の応答性が確認され、可逆性も確認することができた。この結果は、世界で初めての超原子価結合を利用したベイポクロミズム現象である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度では研究課題に関連する研究を合計7つ報告するという予想以上の進捗が得られた。 1.非対称湾曲配位構造を利用した高輝度固体発光性高分子・キャリア輸送材料の創出 非対称湾曲配位構造が共役系高分子においてどのような役割を果たすかは未知である。フッ素原子を導入するという戦略は共役系高分子においてエネルギー準位調節にしばしば用いられる戦略である。当該研究においても、固体発光における発光波長の調節やキャリア輸送性への依存性、薄膜中のモルフォロジーへの影響を評価するために、縮環型アゾベンゼンホウ素錯体にフッ素原子を導入するという研究は非常に重要であった。その結果、予想以上にエネルギー準位を微調整可能であること、特に特定の位置にフッ素原子を導入することで規則的な凝集体を形成可能であるという知見を得た。その他にも、ホウ素原子上にかさ高い置換基を導入することで、より高輝度な固体発光性が得られること、高分子のモルフォロジー変化を溶媒蒸気で誘導することで、発光色の刺激応用性を実現するなど、非対称湾曲配位構造に由来した多数の成果を得るに至った。 2. 五配位構造を利用した狭バンドギャップ化と六配位化によるスイッチング効果の検討 本研究課題においては、世界で初めての超原子価結合を利用したベイポクロミズム現象を報告できたことが大きな成果であるといえる(Chem. Eur J. in press. (DOI:10.1002/chem.202100571))。これは、当初の計画通りであるが、論文として報告できたことが大きく、次年度の研究への基礎となりうる。縮環型アゾベンゼンスズ錯体に置換基を導入することでその配位性を調節可能であることも新たに見出し、全体的に予想以上の進捗が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従い、各研究課題において当該年度では達成できなかった研究の遂行を行う。 1.非対称湾曲配位構造を利用した高輝度固体発光性高分子・キャリア輸送材料の創出 具体的には、14族元素であるケイ素の四角錐構造を導入することにより、共役系平面の垂直方向に対して非対称湾曲構造を作り出す(図3)。13族元素についてはホウ素以外にも、アルミニウムからインジウムまで導入可能な元素の検討を行う。いずれの元素においても共役系に歪みが生じるが、結合の長さ、すなわち高周期化するにつれて歪みが緩和されると期待される。この歪みと共役系の関係性を錯体モノマーと共役系高分子について明らかにする。 2. 五配位構造を利用した狭バンドギャップ化と六配位化によるスイッチング効果の検討 具体的には、縮環型アゾベンゼンスズ錯体の研究で明らかとなった事実をもとに、14族元素であるゲルマニウムの導入を行う。ゲルマニウムでは結合距離が短いことおよび電気陰性度が大きいことに由来し、スズよりも狭バンドギャップ化が進行することが予測されている。加えて、五配位化と六配位化が可逆的に進行することを利用し、共役系の軌道情報を保持したままエネルギー準位のみを調整可能と期待される。以上の配位構造や配位数が共役系にもたらす影響を化合物合成、各種光学測定から明確にする。さらには、狭バンドギャップモノマーを用いた共役系高分子の合成を行い、近赤外吸収・発光材料のさらなる長波長化や六配位化による化学センサーとしての応用の確立を行う。薄膜中での応答による固体センサーとしての利用や共役系の連動によるシグナル増幅に由来した高感度化、反応率に依存した吸収・発光色の変化といった応答性の確認を行う。
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