研究課題/領域番号 |
20K15337
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高橋 倫太郎 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (10794125)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 透過型電子顕微鏡 / ブロック共重合体 / ベシクル / イオン液体 |
研究実績の概要 |
【目的・意義】高分子ベシクルがどのようなメカニズムで形成されるかを解明することを目的とした。そのために、主に溶液状態での透過型電子顕微鏡 (TEM) 観察を行った。通常のTEM観察は溶液状態で行うことはできないが、イオン液体を溶媒に用いれば、溶液状態のままTEM観察を行える。イオン液体の蒸気圧が極めて低いためである。 ベシクルはブロック共重合体が希薄溶液中で形成する典型的な自己集合構造のうちの一つであり、1990年代から盛んに研究されているが、溶液状態での動的な挙動についてはほとんど調べられてこなかった。新しい手法「溶液状態でのTEM観察」を用いれば、ブロック共重合体が集合してベシクルを形成する様子を実空間で観察することができ、それによって形成メカニズムを解明することができると考えた。 【結果】 様々な高分子とイオン液体をスクリーニングすることによって、ブチルメタクリレートとエチレングリコールから成るブロック共重合体 (PtBMA-b-PEG) と、イミダゾリウム系のイオン液体の組み合わせが研究対象として適していると判断した。室温でPtBMA-b-PEGはイオン液体に溶け、分子分散状態であるが、温度を上昇させることによってベシクルを形成する。温度制御可能なホルダーを用いて、溶液の温度を急上昇させ、その直後からTEM観察を行った。その結果、ベシクルが形成される瞬間を観察することはできていないが、ベシクルが溶液中でブラウン運動する様子を観察することができた。また、溶液の温度を上昇させた直後にはシート状の構造が見られたことから、まずPtBMA-b-PEGはシート状の構造を作り、それが湾曲してベシクル構造を形成すると考えられる。しかしながら、イオン液体と高分子の電子密度差が小さく(つまりコントラストが悪く)、明瞭な像を得ることはできないという問題点も判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
溶液状態で高分子集合体の様子をTEMによって観察すること自体が挑戦的であり、初年度にまずはこの点を達成することを目標としていた。その点を達成することができたため、「おおむね順調に進展している」と判断した。また、間接的ではあるが、「どのようなメカニズムでベシクルが形成されるか?」という本研究の本質的な課題に関する情報も得られた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に目標としていた、「溶液状態のTEMによってベシクルを観察すること」、「どのようなメカニズムでベシクルが形成されるかを解明すること」を概ね達成した。今後はこれを踏まえて高分子の重合度、溶媒との親和性、高分子の濃度など、様々な要素を系統的に変化させて実験を行い、異なるメカニズムでベシクルを形成させることを試みる。また、そこから得られた知見を基にして、ベシクルのサイズを制御することを目指す。その後、物質を取り込ませる際の取り込み効率も調べる計画である。 さらに、初年度に明らかとなった問題点「高分子とイオン液体のコントラストが悪いこと」を解決するために、電子密度の高い高分子を合成する。具体的には有機金属錯体構造を持つビニル系モノマーを合成して、そのモノマーからなるブロック共重合体の合成を試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属期間が変わり、研究設備が変わったため、必要な装置・備品に変更が生じたため。
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