本研究では、高分子ベシクルがどのようなメカニズムで形成されるかを解明することを目的として、溶液状態での透過型電子顕微鏡 (LP-TEM) 観察 と時間分解小角X線散乱 (TR-SAXS) 測定により高分子ベシクルが形成する過程をその場で観察することを試みた。 【TR-SAXS測定】電気的に中性なブロック鎖とカチオン性のブロック鎖からなるブロック共重合体と、電気的に中性なブロック鎖とアニオン性 のブロック鎖からなるブロック共重合体を水中で混合することによって形成されるベシクルを研究対象とした。結果として、球状ミセル→棒状ミセル→ディスク状ミセル→ベシクル と形態が変化してベシクルが形成されることが明らかとなった。さらに、高分子ベシクルは膜が厚いため、低分子脂質のベシクル形成とは異なり、中間遷移体であるディスク状ミセルが湾曲してベシクルになる過程が律速段階で、この過程のエネルギー障壁を下げることがベシクルを効率よく作製する際に重要であることもわかった。 【LP-TEM観察】均一なサンプルを作製することが困難で、溶媒の電子密度が高く明瞭な像が観察できず、さらにミセル・ベシクルのブラウン運動が速いためにそれらを追跡するのが困難であることが判明した。そこで、溶媒の電子密度が比較的低く、不揮発性で、溶液の粘度が高いことを満たす系を探索した。その結果、エチレングリコールとスチレンから成るブロック共重合体を1-butyl-3-methylimidazolium hexafluorophosphateに溶解させた系において、高分子濃度を40wt%程度にすると、上記の条件をある程度満たすことができ、ベシクルが形成する過程を観察することができた。球状ミセルおよび棒状ミセルを経由してベシクルが形成されることがわかったが、詳細に動的過程を調査するためにはより鮮明に像が見られる系を探す必要がある。
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