研究課題/領域番号 |
20K15339
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
赤松 範久 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (50806734)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ソフトマテリアル / コレステリック液晶 / 内部ひずみ |
研究実績の概要 |
本研究課題では,湾曲した材料の膜厚中間に位置する伸び縮みが生じない面(中立面)の位置を制御した高耐久フィルムデバイスの創製を目的とする。一般的に湾曲は,中立面を境に膜厚方向において外面で収縮,内面で膨張すると解釈されている。そこで,理論上ひずみの生じない中立面に電子回路を配置する研究が報告されている。しかしながら,ソフトマテリアルの大きい繰り返し湾曲に対して性能が劣化する。これは湾曲に伴って中立面が材料の膜厚中間から移動することに起因するとされているが,材料内部に位置する中立面近傍のひずみ実測は困難であった。したがって,ソフトマテリアル内部の局所的な湾曲ひずみを定量解析することが性能向上への重要な鍵となる。 本年度は,湾曲したソフトマテリアル内部のひずみを定量解析することで,中立面の位置を調べた。具体的には,汎用的なソフトマテリアルであるポリジメチルシロキサン(PDMS)を測定対象とし,膜厚方向のひずみを検知するセンサーとして力,熱,光などの外部刺激により色が変化するコレステリック液晶(CLC)を用いた。CLCは,液晶分子が形成するらせん構造のピッチに応じて特定の波長の光を反射するため,湾曲に伴う膜厚方向のひずみを高精度に検出できる。CLCセンサーは,エラストマーとなるように化合物の種類と組成比を選定し,膨張と収縮が同時に起こる湾曲のひずみを可視化するために反射光波長は可視光領域の中央に設計した。中立面の移動を追跡するために,PDMSフィルム内部の膜厚中間,外面表層部および内面表層部にCLCひずみセンサーを導入し,湾曲に伴う反射光波長変化から,材料内部の局所的なひずみの解析に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り,ソフトマテリアルの大きな湾曲に追従する高耐久なCLCセンサーを作製し,PDMSフィルム内部の膜厚中間,外面表層部および内面表層部におけるひずみの解析に成功している。中立面が存在する膜厚中間にCLCセンサーを導入して湾曲ひずみを解析したところ,湾曲に伴い面外方向に収縮が生じることが明らかとなった。この結果は,PDMSフィルムの弾性的で大きな湾曲により中立面が大きく移動することを示している。さらに,PDMSの引張試験と圧縮試験から得られる引張応力と圧縮応力を用いることで,理論的に中立面移動の傾向を説明できることも明らかになりつつあることから,おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,CLCセンサーを用いたPDMSフィルム内部のひずみ分布をさらに詳細に調べ,湾曲の度合いによる中立面の移動を高精度に解析する。加えて,引張応力と圧縮応力による理論計算もあわせて用いることで,湾曲に伴う内部ひずみが抑制される位置を特定する。そこに,電子回路を内包することで高耐久なフィルムデバイスを創製する。さらに,PDMSに加えて,フレキシブルデバイスに多用される汎用的な高分子フィルムであるポリエチレンテレフタラートフィルムなどにCLCひずみセンサーを導入することで,大きな湾曲における膜厚方向のひずみの解析も行う。 また,フレキシブルデバイスやソフトロボットの開発を促進するために,ねじり等の複雑な動きによるひずみ分布を解析する必要がある。これまでに作製したCLCセンサーを用いて複雑な三次元変形に伴うひずみ分布を色の変化により検出する。複雑な動きにCLCセンサーが適応しない場合は,大きく複雑なひずみにも耐えることができ,大面積化が可能なポリシロキサン骨格を有するCLCひずみセンサーを新たに作製する。このように,ひずみが集中する部分としない部分を可視化し,新たな高性能フィルムデバイスの設計に繋げる。構築した理論計算と実測したひずみを基に中立面の位置を精密に設計したフィルムを作製し,湾曲などの三次元変形に適応するデバイスを創製する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度参加の学会および研究打ち合わせが全てオンライン開催となったため,旅費に未使用分が生じた。加えて,購入予定であったフィルム状のソフトマテリアルを両端から均等に押し込む湾曲制御装置を手動の簡易型としたため,設備備品費に未使用分が生じた。次年度は,本年度購入予定であった湾曲制御装置のスペックの向上,データ解析用の高性能パソコン,レンズやフィルターなどの光学部材購入費に充てる。
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