ポリエチレン(PE)に代表される結晶性高分子材料は、破壊に至る前段階で応力値が増加する「ひずみ硬化」を示す。ひずみ硬化性は材料の強度や耐久性に関わる重要な変形挙動であるが、結晶性高分子が有する複雑な内部構造が原因で、未だにひずみ硬化挙動のメカニズムは十分理解されていない。本研究では、高分子材料の物性を支配する最も根幹のパラメータである分子量および分子量分布の影響に着目した。 エチレンのリビング重合が可能なフェノキシイミン触媒を用いて分子量分布が非常に狭いPEを合成し、市販されている分子量分布が多分散なPEに対して5 wt%添加することで、特定の分子量成分量のみが異なるモデル試料を調製した。 分子量分布を制御した試料を用いて一軸引張試験を行った結果、母材の多分散試料の重量平均分子量が10万の場合、約30万以上の分子量成分量が増加することで、ひずみ硬化性が著しく増加することがわかった。各試料の分子量分布と構造状態からタイ分子率を計算した結果、分子量が約30万以上の分子量成分は結晶層を6枚以上連結するタイ分子を形成する確率が高く、複数枚の結晶層を連結するタイ分子の量がひずみ硬化性を支配していることを明らかにした。 PEをはじめとする結晶性高分子は一軸延伸過程でラメラクラスターユニットと呼ばれる、結晶層が複数枚積層した構造単位を形成することが知られており、本研究で用いた試料では一つのラメラクラスターユニット内に結晶層が3枚含まれる。すなわち、分子量が約30万以上の成分はラメラクラスターユニット間を繋ぐタイ分子となる可能性が高く、ユニット間の応力伝播が促進されたことでひずみ硬化性が向上したと考えられる。
|