本年度は課題①「レオロジー測定によるセルロースナノファイバー(CNF)の緩和挙動の解明」に取り組んだ。昨年度の結果で、CNFの粘弾性緩和がセルロースナノクリスタル(CNC)と異なり、その製法によらず、既存の半屈曲高分子の粘弾性理論だけでは記述できないことが明らかになったため、その原因について検討した。高周波数域(約100s-1)で実測した貯蔵弾性率が理論値よりも大きかったことから、高周波数域で追加の緩和成分が存在するのではないかと考え、その検証を行った。CNFの走査型電子顕微鏡像(SPM)を観察すると、幅約3nmの棒状の繊維(ロッド)に加えて、幅1nm以下の無数の断片(フラグメント)が観察された。このことから、無数のフラグメントが緩和を示すのではないかと考えた。乾燥状態でのSPM観察により算出したフラグメントの平均サイズ(長さ:約26nm、高さ:約1nm)を用いて、フラグメントの緩和時間を理論的に算出した。しかし、フラグメントは想定よりも高い周波数域(約10000s-1)で緩和し、依然としてCNF全体の粘弾性緩和を説明することはできなかった。この原因として、フラグメントが存在することにより、ロッド周辺の流体力学的相互作用が非理想的になったためと考えられる。また、今回の検討では、乾燥状態のフラグメントのサイズを用いて計算したため、湿潤状態のサイズとは異なる可能性もある。
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