本課題では,近年研究が進められている有機熱電変換材料において,熱的特性や熱電特性に重要な分子振動やフォノンに関して量子化学計算や分子振動解析等を検討する。フォノンを解析し,熱伝導や電気伝導に寄与するフォノンの特定や,分子構造などと照らし合わせて構造物性相関を得る計画を立てた。 計算設備の拡充によって熱的評価に必要な大規模長時間計算が可能となり,非平衡分子動力学計算によって有機材料や複合材料に計算機上で温度差を印加しながら計算を行うことで,材料内部での熱の伝わり方を微視的に観測した。トラジェクトリ解析により,材料の熱的特性の評価に必要なパラメータを取得し,材料内の温度分布や流出入する熱量から熱伝導性を定量評価した。令和5年度は,これまでの共同研究などによって高いゼーベック係数が観測されているいくつかの平板型の分子やそれらの誘導体について熱的特性を評価した。また,誘導体への置換基の導入によって分子間距離が変調される系については,電気伝導性に関して分子間のトランスファー積分の計算などから確認した。 なお研究期間全体を通じて,研究代表者の所属変更にともなうエフォートの増加や新型コロナウィルス感染症の影響,導入した計算機にハードウェア上のトラブルが発生したことなどから,本課題の遂行には遅れが生じた。そのため研究期間の延長を申請したものの,いくつかの研究アプローチについては計算手法の立ち上げにおいて一定の成果が見られるにとどまった。
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