トランジスタとして適用例のある半導体分子を用いて、新規分子性導体の開発を行った。平面的な分子ではなく、エチレンジチオ基のような構造的自由度を分子末端にもつ分子に着目し、これを用いてラジカルカチオン塩の開発を行った。これは、分子性導体の電子構造を一次元以上の構造にするためである。具体的にはBEDT-BDTというトランジスタ分子を用いて、いくつかのラジカルカチオン塩を作製できた。新規分子性導体(BEDT-BDT)PF6は二次元電子構造をもつ真性モット絶縁体であり、2 Kまで常磁性を保持する。この電子構造を維持したまま反強磁性相互作用Jの値を強化させる目的で対アニオンの変更、セレン置換したドナー分子の合成を行った。強束縛近似を用いた分子軌道計算でフェルミ面を見積もった。(BEDT-BDT)ClO4では、二次元正方格子に近い大きく歪んだフェルミ面が得られた。(BEDT-BDT)AsF6とセレン置換体BEDT-BDSをドナーに用いた(BEDT-BDS)PF6では擬一次元電子構造のフェルミ面が見積もられた。電気抵抗率は295 K以下でなだらかに上昇し半導体的なふるまいを示した。 一方で、0から+1価までの間で様々な価数状態をとる伝導体の開発を試みたが、計画通りにはすすまなかった。これにより、ラジカル状態の分子に関する結晶構造のデータ収集が不十分であり、分子軌道計算の計算の補正に関しては課題が残った。今後、引き続き検討を行う。
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