研究課題/領域番号 |
20K15357
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研究機関 | 山陽小野田市立山口東京理科大学 |
研究代表者 |
舟浴 佑典 山陽小野田市立山口東京理科大学, 工学部, 助教 (20734312)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イオン液体 / スピロピラン / ジアリールエテン / フォトクロミズム / 光応答性 / 熱物性 |
研究実績の概要 |
本課題は、フォトクロミック分子やイオン対を液状化することで、液体物性が光で変化するフォトスイッチング液体材料の開拓を目的としている。2020年度は、光応答性分子としてイオン性のスピロピラン(SP)およびジアリールエテン(DAE)からなる塩を設計・合成し、その光異性化挙動について評価した。 (1) カチオン性SPとして、アルキルイミダゾリウム置換基を有する塩を合成した。アルキル鎖長とスピロピラン置換基が異なる5例の誘導体を合成し、いずれも室温イオン液体として得られた。これらのうち、SP置換基がニトロ基の4例はフォトクロミック液体であったが、分子間相互作用の低減を目的として設計した無置換体は光不活性であった。以上のことから、SPのイオン液体化には、液体物性と光応答性の両面を考慮した分子設計が必要であると結論づけた。イオン液体状態の光異性化過程を速度論的に解析し、光による異性化の進行と熱による逆反応が競合して起こっていることが明らかとなった。 (2) カチオン性DAEとして、イミダゾリウム部位を有する塩を合成した。この塩は過冷却イオン液体として得られた。イオン液体状態の光異性化挙動を分光学的に調べ、構造変化の繰り返し耐久性が単体の溶液状態に比べ比較的高いことが明らかとなった。別途、固体の塩をイミダゾリウム系イオン液体に溶解させた系では、周囲のイオン雰囲気がフォトクロミック耐久性の向上に寄与していると結論づけた、 (3) (1) の物質探索過程で得られたSP塩の高融点結晶について、固相光異性化反応の圧力による制御を実現した。この系は結晶内の反応空間が光応答性と密接に関連しているため、圧力によって反応空間が減少し、光異性化能が低下したことが明らかとなった。反応抑制に必要な圧力は、常圧の反応空間と良い相関を示した。これらの結果はSP系イオン液体の光異性化を取り扱う上でも重要な指針となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) SPイオン液体系について、常温で液体状態の塩を5例見出しており、うち4例で単体でのフォトクロミズムを確認しており、分子設計指針は概ね固まりつつある。また、熱による逆反応との競合過程を定量的に取り扱うことができた点、高融点結晶の塩について応力による光異性化の制御を実現した点から、イオン液体系においても多重外場応答の実現が期待される。一方、当初計画していた、単結晶など微小領域の顕微分光装置の立ち上げについては、所属研究室の現有機器で予備的な検討が可能であったため次年度以降に検討することとした。 (2) DAEイオン液体系について、分子修飾による方法・混合による固体の高濃度溶液を作成する方法の両面でフォトクロミック活性なイオン液体を得た。これらの系では、複数の配座分子が混在し低融点化している可能性が示唆された。また、既存の希薄溶液系に比べて耐久性の向上が見られたため、材料展開の面で有用であると期待される。 (3) ヘキサアリールビイミダゾール(HABI)系については、適切な分子修飾方法が定まっていないため、次年度以降にさらなる検討が必要な状態である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の結果をもとに、室温で液体となりうるSP系・DAE系・HABI系イオンおよび中性分子の開発を進め、単体での光応答性を評価する。2021年度から所属が変更となり、実験環境を一から立ち上げる必要があるため、まずは合成関連の実験環境の整備を最優先とする。 (1) SP系においては、2020年度に得られたイオン液体のうち少なくとも1例を用いて、より詳細な光異性化挙動の解明と、光以外の外場応答性を精査する。また、分子液体系について、分岐アルキル鎖の連結構造を変化させた複数の候補を探索し、液体分子を得ることを目標とする。フォトクロミック結晶の応力効果については、X線構造解析から反応空間の変化を観察する。 (2) DAE系については、2020年度に得られたイオン液体の基本骨格を用いて、液体物性のアルキル鎖長依存性を調べる。オニウム系イオン液体との混合系について、DAE塩とイオン液体の両方の構造を変化させた組み合わせを調べ、よりフォトクロミック耐久性の高い液体の実現を目指す。 (3) HABI系については、引き続き適切な分子修飾方法を探索しつつ、まずは高濃度のイオン液体溶液について光異性化挙動を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた分光用顕微鏡システムについて、所属研究室の現有機器で予備的な検討が可能であったこと、年度途中で研究代表者の他機関への転出が決定し、構築したシステムが次年度以降も継続して利用できない可能性が考えられたことから、購入を見送った。 また、当初参加を予定していた国内外の学会が延期およびオンライン開催となり、出張旅費が発生しなかった。これらの支出のうち、一部は結晶の応力効果の検討に必要なサファイアアンビルの購入に充て、差額は次年度使用額として研究データ処理用PC、有機合成環境の整備に関わる備品・消耗品類、物質合成原料の購入費に充てる予定である。
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