本課題は、フォトクロミック分子やイオン対を液状化することで、液体物性が光で変化するフォトスイッチング液体材料の開拓を目的としている。2022年度は、前年度の検討で得られた知見を元に、光酸発生剤であるスピロピラン(SP)を用いた光応答性プロトン性イオン液体や、ジアリールエテン(DAE)構造をもつイオン液体の開発を進めた。また、ロフィン誘導体からなる塩の合成経路を開拓した。 (1) 光酸発生剤として知られるスピロピラン誘導体に対して、共役酸のpKaが異なる有機強塩基を等モル混合したプロトン性イオン液体の開発を試みた。単体では流動性に乏しい高粘性液体が得られたため、MeOH溶液中の光応答性を分光学的に評価した。その結果、部分的ではあるが、カチオン-アニオンのイオン対からなるプロトン性イオン液体状態と、中性の酸塩基混合物状態を光でスイッチングさせることに成功した。 (2) 2020年度に合成したDAEイオン液体系について、さらなる低融点化、低粘度化、光応答性向上を目的としてアルキル鎖長を伸長(ブチル基からヘキシル基)した塩を合成し、熱物性と光応答性を評価した。短鎖の塩に比べて12 °C低融点化が見られ、疎水性雰囲気の向上により熱戻り速度が増加した。 (3) ロフィン二量体骨格を含む塩の合成を検討したが、高い光応答性のため取り扱いが困難であった。そこで、ロフィン単量体にイオン性置換基を含む塩の合成経路を新たに開拓した。今後、熱物性や光応答性に興味が持たれる。
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