近年、我々の研究室では、単分子で恰も強誘電体の様に振舞う分子「単分子誘電体」の開発に成功した。これは、籠状の分子骨格内に1つの金属イオンを包接したプレイスラー型ポリオキソメタレートを用いて達成された。包接された金属イオンは分子内に2か所の安定サイトを有しており、外部電場の印加により、安定サイト間を移動することで、分子分極を反転させることができる。理論的には、「単分子誘電体」は分子一つ一つが強誘体的特性を発現するため、単分子メモリへの応用が期待されている。本研究では、その初動研究として、「単分子誘電体」を実装したメモリデバイスを作製し、特性評価やプロセス開発を実施した。 前年度までに、測定機構の確立や、プロトデバイスの作製、及び、配向制御に取り組んできた。当該年度では、マイクロオーダーまで微細化した素子を作製するため、プロセス改良、及び特性評価に注力した。その結果、4インチウエハ上に均質な「単分子誘電体」薄膜を成膜するための、前洗浄工程、及び、成膜方法の確立に成功した。実際に、1umまで微細化した素子についてトランジスタ特性を評価したところ、1V以上のメモリウィンドウの開窓を確認し、メモリとして駆動することを明らかにした。現在は、改良したプロセスを用いて、集積化に取り組んでいる最中である。当該研究を通して、「単分子誘電体」メモリを開発する上で必須項目となるプロセス開発、及び、基礎特性の評価を達成した。今後は、実用化を視野に入れ、集積化や更なる微細化工程に着手する予定である。
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