研究課題/領域番号 |
20K15368
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
樽谷 直紀 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 助教 (60806199)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / 層状金属水酸化物 / 酸素生成反応触媒 |
研究実績の概要 |
電気化学的な酸素生成反応は、水の電気分解反応におけるボトルネックであり、触媒を用いた効果的な反応進行が望まれる。層状水酸化物は、層を剥離したナノシートが高い触媒活性を示すことが近年明らかとなり、研究の中心となりつつある物質である。本研究では埋蔵量の多い元素から構成される金属水酸化物触媒に着目し、原子層厚の水酸化物をナノスケールの粒子として合成し、その化学組成を制御して触媒活性に与える影響を網羅的に評価し、より高活性な金属水酸化物触媒設計の指針を与えることをめざす。 初年度は、水酸化ニッケルをベースとした触媒の合成方法、金属カチオン置換に重点を置いた化学組成の制御、酸素生成反応触媒活性に与える影響を調査した。イオン性前駆体溶液のpHを急激に上昇させ、微結晶形成を促した。この際に粒子凝集を防ぐために飽和カルボン酸を表面保護剤として添加した。飽和カルボン酸のアルキル鎖長が微粒子形成に与える影響を子細に調査し、サブnmスケールで粒子の大きさを制御する技術を確立した。一方で生成した微粒子の凝集安定性は保護剤に強く影響されており、適当なアルキル鎖長をもつ飽和カルボン酸の場合のみよく分散した微粒子が得られることを明らかにした。化学組成の制御をめざし、ニッケル塩の一部をコバルト、鉄の塩でそれぞれ置換した前駆体を用い、同様の手法で微粒子合成を試みた。ニッケル-コバルト水酸化物は比較的幅広い組成で微粒子が得られた一方で、ニッケル-鉄水酸化物は鉄の比率を大きくするとともに粗大な結晶が得られた。得られた微粒子の電気化学触媒特性を評価した。微粒子表面の保護剤は触媒活性に大きな影響を与え、より小さな保護剤が触媒活性に有利であった。ニッケル水酸化物単体と比較すると、ニッケル-コバルト水酸化物、ニッケル-鉄水酸化物ともに優れた触媒活性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
飽和カルボン酸を表面保護基とした水酸化物微粒子の合成をスムーズに行うことができた。水酸化物は親水性が高い一方で、飽和カルボン酸はその大きさによっては疎水性が高く、生成する粒子の分散環境の選定は非常に困難になると想定していた。実際の合成では前駆体として導入する、微粒子生成途中に導入する、などいくつかの手法を検証し、効果的にサイズを制御する方法を見出した。また、化学組成の制御については、サイズ制御の際に得られた結晶成長の抑制効果についての知見を活用した。水酸化物ごとに異なる結晶成長過程を効果的に抑制する保護剤を選定できたことで、化学組成を変えることが可能となった。 以上のように、本年度は当初予定していた「微粒子サイズの制御」「化学組成の制御」をともに達成できたことから、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、水酸化物微粒子のアニオン成分であるOH基の置換に取り組む。近年の研究によって、金属カチオンのみならず配位アニオンサイトが酸素生成反応触媒の機構に関与していることが指摘されている。既存手法ではイオンビームの活用や強酸・強塩基環境での配位アニオン置換が進めれらているが、これら手法ではナノ粒子形態を保つことは容易ではない。本研究で得られているナノ粒子は2 nm程度と非常に微細であるために表面エネルギーが高いことに加えて、保護剤であるカルボン酸が配位アニオンの一部となっている。この特異性を活かし、通常では反応を起こさないような低温、大気圧環境での配位アニオン置換を試みる。初年度の成果であるナノ粒子合成技術と金属カチオンの置換に加えて、配位アニオンの組成制御を達成することで、金属カチオン・配位アニオンそれぞれの元素置換が水酸化物ナノ粒子の電気化学触媒活性に与える影響を明らかにすることをめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に計上していた予算のうち、旅費を主として使用金額が小さくなった。COVID-19ウィルスの蔓延に伴う移動制限、および学会等の集会開催の制限が主な要因である。事態が急速に回復する見込みは薄いことから、旅費に計上した金額をウェビナー等の参加費用、論文のオープンアクセス費用等に充て、より効果的に研究を遂行、アウトリーチするために使用する。
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