本研究の目的は強誘電体中の強弾性ドメインの電界応答速度の限界とその限界に達したメカニズムを明らかにし、将来の高速通信機器に応用へと展開するための 材料設計の基盤を確立することである。完全に非分極軸に配向したエピタキシャル膜の作製を行い電気特性及び高周波パルス電界下の構造解析を行う。調査する 強誘電体材料は代表的な材料であるジルコン酸チタン酸鉛を用いた。 研究を通して以下のような結果が得られた。 (1)完全a軸の作製及びその構造の膜厚依存を調査を実施した。具体的にはKTaO3基板上に完全a軸配向PbTiO3膜の作製を試みた。その結果、臨界膜厚が約90nmで 分極軸配向が確認できた。 (2)スイッチング量と結晶構造の関係性を調査するために、各Zr組成で 完全非分極軸配向膜の作製を試みた。ジルコニアを固溶させることで膜の格子定数が大きくなり、基板と膜との格子ミスマッチが増加し臨界膜厚が減少した。また最終 的にZrが多くなるとa軸配向膜が得られないことが確認できた。Zr組成が大きい場合は、KTaO3単結晶基板上に適切な格子定数を持つバッファー層を導入すること で、完全a軸膜を作製することに成功した。 (3)電界下におけるドメインスイッチングの限界速度を、ナノ秒単位まで定量的に明らかにするため観察は放射光X線回折 (SPring-8)を用いて実施した。様々なZr比の膜に200nsの電圧パルスを印加し結晶構造の変化を観察した結果、Zr比が少ない組成(正方晶系)では強弾性ドメイン構造が応答していたにも関わらず、Zr比が多い領域(菱面体晶系)で強弾性ドメインの応答の数十nsの遅延が観察された。従って高周波領域(数MHz以上)では正方晶構造が優位であることが明らかになった。これは分極-電界(P-E)特性の結果とも良く一致していた。
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