研究実績の概要 |
金属/水溶液界面は様々な電気化学反応の起こる舞台であり, 金属表面上の水分子の振る舞いを理解・予測することは, 電気化学デバイスの性能向上に必要となる. 例えば燃料電池の変換効率は各電極で起こる水素・酸素発生反応における反応中間体の安定性が重要と考えられ, 金属表面における水の基礎的性質を明らかにすることで変換効率上昇への貢献が期待できる. 昨年度は研究開始次年度として, Pt(111)表面の吸着水系を対象に第一原理計算を行った。吸着水の構造として√3x√3 H-down/H-up, √39x√39 6員環, √39x√39 5・6・7員環構造の吸着エネルギーを求め, 各構造の安定性を原子対分布関数のピーク位置などから議論した. また最安定構造と求められた√39x√39 5・6・7 員環構造の振動モードの状態密度と赤外強度を求め, 赤外反射吸収分光の実験結果と比較して考察した. 結果として固有振動数は実験と良い一致を示したが, 赤外強度の相対値は実験と不整合な部分があった. さらにゼロ点振動補正を加えた吸着エネルギーを脱離活性化エネル ギーの実験値と比較し, 本研究で使用した汎関数はPt表面とH2O分子との相互作用を過小評価していることを示した. 結論として, 第一原理計算を用いた金属表面吸着水系, またより広くは電気化学の金属/水溶液界面 の予測能力向上のために, より精度の高い汎関数の開発が要求され, それは計算表面科学・計算電気化学分野の大きな課題である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始次年度として本研究の目標である金属/水界面の理解に向けて、白金電極表面の吸着水の構造を詳細に解析することで燃料電池などの基礎電気化学反応の理解が進展すると考えられる. 昨年度の解析はPt(111)表面の吸着水系の最安定構造と求められた√39x√39 5・6・7 員環構造において赤外振動スペクトル, 吸着エネルギーなど実験値と比較し良好な結果を得た. さらに本研究で標準的な第一原理計算法を採用した場合においても白金表面と水の相互作用が過小評価されることがわかった. このような知見は電気化学の金属/水溶液界面の予測能力向上のための足掛かりとなる. 以上のように, 概ね順調に進捗している.
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