研究課題/領域番号 |
20K15386
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
加藤 康作 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), ポストドクトラル研究員 (40751087)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | キャリアダイナミクス / 光触媒 / 過渡吸収分光 |
研究実績の概要 |
光触媒粉末のキャリアダイナミクスへ磁場が与える影響を調べ,得られた知見を活かして光触媒の活性をさらに向上させることを目指して研究を行っている.2020年度はその基礎となる,光触媒粉末中の欠陥がキャリアダイナミクスへ及ぼす影響を詳しく調べた.光触媒のような粉末材料には欠陥が多く存在し,光励起キャリアの振舞いはバルクと大きく異なっている.欠陥は光励起キャリアの再結合を促進すると従来考えられてきたが,逆に再結合を抑制する場合もあることが報告されるなど,欠陥の光キャリアダイナミクスに対する影響がまだ十分に理解されていなかった.そこで本研究ではこの理解を深めるため,過渡吸収分光法によりチタン酸ストロンチウム粉末の光励起キャリア減衰過程をサブピコ秒からミリ秒の広い時間領域で測定し,欠陥が少ないバルク単結晶と比較した.単結晶の場合,光励起電子による過渡吸収は約30ナノ秒の時定数で単一指数関数的に減衰した.これに対し粉末の場合,自由電子に帰属される2000cm-1とトラップ電子に帰属される11000 cm-1の過渡吸収はいずれも光照射直後から減衰を始めるが,減衰速度は徐々に遅くなった.単結晶と粉末の11000 cm-1の減衰曲線を比較すると,励起直後は粉末の方が減衰が速いが次第に減速し,励起後約10ナノ秒後に単結晶よりも信号が強くなった.この結果は,粉末欠陥は励起直後の再結合を促進し,その後は再結合を抑制することを示していると考えられる.これは,光照射直後は電子と正孔が互いに近い欠陥に捕捉されるために再結合が起きやすいのに対し,時間が経つとキャリアが拡散して離れたところで欠陥に捕捉され,再結合にかかる時間が長くなるためと推測される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は光触媒粉末の中に含まれる欠陥がキャリアダイナミクスへ及ぼす影響について詳細に研究を行い,磁場の影響を考察する上で有用な知見を得ることができた.一方,外部磁場を印加しながら過渡吸収および光触媒活性を測定するセットアップの準備を進めているが,現時点では試料に印加できる磁場の強度が想定していたより低く,まだその効果を観測するに至っていない.
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今後の研究の推進方策 |
過渡吸収の測定や光触媒活性の評価においてさらに強い外部磁場を印加できるよう,現在使用しているものよりも強力な磁石を導入し,また試料と磁石の距離をより近づけられるよう装置の配置を最適化する.過渡吸収から得られるキャリアダイナミクスの情報を光触媒活性と比較することで,磁場が光触媒作用に及ぼす影響を詳しく調べる.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は光触媒粉末のキャリアダイナミクスを理解する上で基礎となる粉末欠陥の効果をより詳しく検討するよう計画を変更したため、磁場の影響の評価に関して当初予定していた物品の導入の一部を次年度に行うことになった。この次年度使用額は2021年度請求助成金と合わせて主に強力な磁石の導入および測定装置の配置改良のための物品購入に使用する計画である。
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