光触媒における光励起キャリアダイナミクスと,そこに磁場が与える影響について,過渡吸収分光を用いて以下の研究を行った. [欠陥の効果]光触媒を構成する半導体粉末粒子表面には欠陥が多く存在する.この欠陥が光励起キャリアの振る舞いに与える影響を調べるため,チタン酸ストロンチウム粉末の光励起キャリア減衰過程を欠陥が少ないバルク単結晶と比較した.光励起電子による赤外過渡吸収の減衰は,励起直後は粉末の方が単結晶より速いが,ナノ秒領域では粉末の方が緩やかになった.これは電子と正孔が互いに離れた欠陥に捕捉され再結合が抑制されたことを示唆していると考えられる.一方,酸化タングステンでは酸素欠陥を増やすと再結合が促進される結果を得た.これは酸化タングステン中の酸素欠陥が複合体を作り,その中を捕捉されたキャリアが容易に動き回われるためと推測される. [磁場の影響]光触媒活性が磁場の印加によって変動するという報告があり,この理由の一つとして光励起キャリアダイナミクスへの磁場効果が提案されている.この検証のため,光触媒に磁場を印加しながら過渡吸収分光を行うための装置を製作した.光触媒粉末試料を電磁石のギャップ間に設置したガスセル中に保持し,電磁石のポールピースに磁場の向きと平行に開けた穴から,試料を励起するための紫外光パルスと,励起された光キャリアを検出するための赤外光を試料へ入射した.試料を透過する赤外光の紫外光照射による強度変化から光励起キャリアの減衰を評価した.主に酸化チタンを試料としていくつかの条件で過渡吸収を調べたが,今回の測定では磁場の印加の有無による有意な違いは見られなかった.このことから,光触媒活性への磁場効果の原因としては光触媒中の光励起キャリア寿命や分子への電荷移動過程への影響より,分子が電荷を受け取った後で起こる一連の反応過程に対する影響が大きい可能性が示唆された.
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