低環境負荷のエネルギー変換技術を確立するためには、高効率な電極触媒が不可欠である。特に水の電気分解による水素製造は、化石燃料からの脱極の観点から大いに着目されている。このためには、触媒の活性向上に向けた材料設計指針の獲得が急務である。
本課題では、2019年に提唱した活性向上の数理モデルに対し、実験的な裏付けを与えることに成功した。これまでの触媒設計では、触媒と基質の結合強度が強すぎでもなく、弱すぎでもないことが良いとされてきた。この結合強度は、吸着エネルギーとして評価可能であり、その最適値はゼロである、という考えが主流であった。一方、この考えは速度論的な効果や触媒に与えられる電圧の影響が考慮されていないため、実際の触媒反応環境における活性を予測しようとしても誤差が大きい。この中で、反応速度論をもとに、新たな数理モデルを構築した。
本課題では、水電解触媒のモデル系として白金を用い、その活性が2019年の新理論とどの程度整合性があるか、評価した。特に、理論曲線と実験データの整合性を評価するため、機械学習の一手法である遺伝的アルゴリズムを活用し、実験データを理論式でフィッティングした。このことにより、従来理論では実験データを説明できない一方、新理論では実験データを再現できることが分かった。得られたフィッティングのパラメーターから、吸着エネルギーはゼロでなくても高活性触媒が実現可能であることが示唆された。これは、2019年の理論予測を裏付ける成果であり、2021年、ACS Catalysis誌において報告した。
|