研究課題/領域番号 |
20K15392
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
山口 真平 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 和泉センター, 研究員 (40761002)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 固体酸化物形燃料電池 / 酸化・還元耐性 / 再生可能エネルギー / バイオマス / 水素 |
研究実績の概要 |
本年度は、①燃料極支持セルの作製、②NiAl2O4、NiO、ならびにYSZから成る成型体を還元した燃料極(NAO-NiO-YSZ)の構造解析、③繰り返し酸化・還元後の燃料極の電気化学特性評価、④Fe-Mg系スピネル酸化物の材料合成と還元特性の評価、ならびに⑤実用サイズセルを用いた電気化学特性評価を行った。 ①NiO、ScSZ粉末に増孔剤、可塑剤、樹脂バインダーを用いて粒子調製し、加熱圧粉成型により燃料極および電解質を一体成型した。完成セルの電気化学特性は、電解質の厚みが同程度のセルと比較して高い性能が明らかとなった。②NAO-NiO-YSZを繰り返し酸化・還元し、還元後の燃料極の断面をFIB-SEMにより観察した。還元状態では、数nm~数十nmのNi粒子が生成しているのに対し、酸化状態では、Ni粒子は数µm程度のサイズのNiAl2O4に取り込まれて存在していることが明らかとなった。③NAO-NiO-YSZを繰り返し酸化・還元し、燃料極の電気化学特性を詳細に解析したところ、酸化・還元を繰り返しても交換電流密度がほとんど変化しないことが明らかとなった。NAOがNiO-YSZの安定性に寄与している可能性が示唆された。④ゾルゲル法によりFe-Mg系のスピネル酸化物(MFO)を合成した。MFOに含まれるMgFe2O4から還元されたFeは、750℃の水蒸気と接触することでほぼ全て酸化した。また、同様の手法により単一プロセスでナノサイズのNiO-YSZの複合粉末が合成できることが明らかとなった。⑤100mm角の実用サイズの単セルスタックを用いて、バイオマスのガス化ガスにおける50%以上の高燃料利用率での電気化学特性を評価することで、実用的なスタックやシステムの熱効率を予測する手法を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画に対し、進捗は順調である。 ①計算熱力学による安定な複合酸化物組成の解明、②酸化・還元耐性の高いセルの作製条件の解明、③実用条件に近いガス雰囲気での燃料極の電気化学特性の解明について順調に進捗した。 ①計算および解析の結果からNi-Al-Zr系の酸化物では、部分安定化ZrO2がNiAl2O4と独立して存在し、酸化・還元時の体積膨張による応力を緩和する可能性が示唆された。また、Zn-Mn-Ni系の複合酸化物は、ZnMn2O4の還元により析出した微細なNi粒子により性能は向上するが、NiがZnの還元を促進することで三相界面の不安定化につながる可能性が示唆された。 ②実用条件に近いSOFCの酸化・還元耐性を明らかにするために、NiO-YSZ、造孔剤、および樹脂からなる被覆粒子を調製し、加熱圧粉・焼成することにより燃料極支持セルを作製した。得られたセルは、同程度の厚みの電解質を有する商用セルよりも高い性能を示した。また、ゾルゲル法によりNiO-YSZ複合粒子ならびにMg-Fe系スピネル酸化物(MFO)粒子の調製を検討した。MFOは750℃において高い酸化・還元特性を有することが明らかとなった。 ③実用的な燃料利用率におけるSOFCの特性を評価するため、バイオマスのガス化ガスにおいて100 mm角の実用サイズの単セルスタックの電気化学特性を評価した。ガス化によるタール成分が残存し、硫化水素が残存したガスでは、燃料極において拡散の不十分、Niの被毒、ならびに酸化によって初期特性は失われた。また、50%を超える燃料利用率におけるセルの特性から、スタックおよび発電システム全体の熱効率を検討した。
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今後の研究の推進方策 |
酸化・還元耐性に優れたSOFCの開発に向け、①計算熱力学による安定な複合酸化物組成の解明、②酸化・還元耐性の高いセルの作製条件の解明、③実用条件に近いガス雰囲気での燃料極の電気化学特性の解明について研究を継続する予定である。 ①再生機能を有する酸化物の探索、合成、ならびに基礎特性評価を進める。特に、計算熱力学による解析を利用し、電子伝導性およびイオン伝導性を有し、電解質との反応性が低く、酸化・還元耐性があり、遷移金属元素を取り込める複合酸化物を探索する。候補物質を実際にゾルゲル法などで合成することにより諸特性を明らかにする予定である。 ②再生機能を有する酸化物を複合化した燃料極を作製する。そのうえで燃料極の酸化・還元耐性、電気化学特性、機械強度、および構造を明らかにする。また、燃料極の構造は走査型電子顕微鏡複合装置などを用いて調べる予定である。 ③より実用的な評価を行うために、一般的な水素、炭化水素、もしくはバイオマスのガス化ガスにおけるSOFCの特性評価を進める。特に、高燃料利用率におけるセルの評価を行うことでより実際に近いスタックやシステムとしての性能を検討する。そのうえで、再生する酸化物を含む燃料極を備えたセルの特性、および課題を総合的に検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、熱力学計算ソフト(CaTCalc Xe)の更新や計算のためのデータベース作成などの費用が発生しなかった。また、参加を予定していた国際会議が渡航制限により参加できなかったため、参加費や渡航費などが予定よりも少なくなった。さらに、本年度は採用者の任用期間が短くなったため、人件費の支出も予定よりも少なくなった。以上の理由により、発生した次年度使用額を、次年度に必要な消耗品の購入予算、学会参加費、ならびに渡航費に使用する計画である。
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