CGGの3塩基リピートは正常FMR1遺伝子の5'非翻訳領域に存在するが、CGGリピートの異常伸長に起因するRNAの異常構造の形成は脆弱X関連振戦/失調症候群(FXTAS)などの遺伝子疾患の原因となる。リピート配列の異常伸長が原因となる疾患群はリピート病と呼ばれ、有効な治療法がなく治療薬の開発が望まれている。本研究では、CGGリピートRNAに結合しRNAの異常構造を解消する構造変換誘起剤の開発を目的としている。 CGGリピートRNAのグアニンと水素結合を形成する新規低分子リガンドを合成し、CGGリピートRNAに対する結合特性を蛍光滴定実験、CDスペクトル測定、ゲルシフトアッセイ、及びRNA融解温度測定により調べた。評価の結果、本リガンドはCGGリピートRNAの形成するヘアピン構造のG-Gミスマッチ部位に結合し、ヘアピン構造を著しく安定化することがわかった。dimer型のリガンドは、G-Gミスマッチ部位にて隣接する2つのグアニンに1:1の比で結合することが示唆された。また、チオフラビンTアッセイ及びRNase T1アッセイによるRNAの構造変化解析の結果、興味深いことに、本リガンドは疾患の原因とされるCGGリピートの異常G4重鎖構造をヘアピン構造へと変換する性質をもつことがわかった。一方で、他の疾患に関連するG4C2の6塩基リピートに関して、本リガンドの結合はみられるものの、CGGリピートで確認された構造変化誘起能はみられなかった。したがって、本リガンドの構造変換誘起はCGGリピートに選択的であることが示唆された。このようなRNAの構造変換誘起剤は、RNAの異常構造が原因となる疾患に対する治療薬開発へと展開が期待される。
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