本研究の目的は、「アミノ酸・ペプチドからなるコアセルベートを用いて前生命環境にとって必須な超分子化学反応システムを構築する」ことである。前年までにフェニルアラニン連続配列を鍵とする自己集合性ジペプチドからなる液液相分離に成功していた。2021年度では、形成したペプチド型コアセルベート内での反応開発を行った。具体的には前生命環境で形成可能と考えられるN-カルボキシ無水物(NCA)を利用することで、コアセルベート内部でのペプチド合成に成功した。またペプチド型コアセルベートが持つ反応性を利用することで、刺激の周波数への応答性の発現をおこなった。興味深いことに、周波数依存的な応答を介してコアセルベート物性が変化する分化現象を発見した。このような生物模倣の応答性は生命の起源にとっても重要な知見を与えると考えられる。 またコアセルベート以外にも、生体が示す体表模様形成から着想を得た超分子ヒドロゲルの非平衡パターン形成にも成功した。ヒドロゲルを形成する超分子ファイバーに対して光応答性を付与した。光マスクを利用した光照射によってファイバーを一部分分解したところ、非照射部位における分解を介して光照射部位にファイバーが濃縮することを発見した。これは超分子ファイバーの形成・分解とゲル化剤モノマーの拡散が関与していると考えられる。このような光パターニング技術は、ヒドロゲルの細胞培養基盤や再生医療材料への応用へつながると期待される。
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