ナス科植物タバコにおいて生長阻害を引き起こすことなく、虫害防御応答を活性化し、ニコチンの蓄積を誘導する一方、アブラナ科のモデル植物シロイヌナズナでは同濃度でジャスモン酸応答活性を示さない特異な生物活性を示すJA-Ile-macrolactone (JILa)に着目し、その作用機構解明に取り組んだ。ナス科のモデル植物としてゲノムが解析されており、種々の変異体が利用できるMicro-Tomを用いて生物活性評価などを行なった。生物活性評価の結果、JILaが生長阻害を引き起こさない一方で、耐虫害活性のあるトマトの特化代謝物トマチンの蓄積を活性化することを見出した。JILaはジャスモン酸イソロイシンの類縁体であるが、実際にトマトの植物抽出物におけるジャスモン酸類の含有量をLC-MS/MSで定量した結果、JILaは検出下限以下であり、ほとんど含まれていなかったことから、内在性の化合物でないことが明らかとなった。JILaによる特異な生物活性発現機構について明らかにするため、JILaについてin-vitroでジャスモン酸共受容体COI1-JAZとの結合活性評価を実施した。その結果、JILaそのものはトマトに13種類存在するCOI1-JAZ共受容体サブタイプのいずれとも結合しないことが明らかとなった。一方で、JILaの加水分解物である12-ヒドロキシ-ジャスモン酸イソロイシン(12OH-JAIle)は13種類の中でも特にJAZ5/6/7/8により選択的に結合することを示唆する結果が得られた。これらの結果は、JILaがトマト植物体内で12OH-JAIleに変換されることで、一部のCOI1-JAZ共受容体サブタイプを選択的に活性化し、結果として生長阻害と防御応答を切り分けていることを強く示唆する。今後さらにトランスクリプトーム解析を含めシグナル伝達など作用機構のさらなる解明を進める予定である。
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