研究課題/領域番号 |
20K15405
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
工藤 雄大 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (60824662)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | テトロドトキシン / イモリ / 生合成 / メタゲノム / 構造解析 / 質量分析 |
研究実績の概要 |
テトロドトキシン (TTX) は、強力な毒性と複雑な化学構造を持ち、海洋生物と陸上の両生類に広く分布する興味深い化合物である。陸上におけるTTXの生産者は不明瞭であり、自然界でどのようにしてTTXの構造が構築されるか、即ち生合成経路は長年の謎となっている。本研究では、陸上のTTXに焦点を当て、メタゲノム解析と有毒イモリの成分解析による生合成経路の解明を目指した。 先行研究でイモリが自身で毒を生産しないことを確認した。TTXを高濃度に含むイモリの生息地から、TTXの生産者を含むことが推測される環境サンプルを得た。環境サンプルから断片化を抑えながらDNAを抽出し(環境DNA)、インサートDNAとしてFosmid libraryを作成した。TTXの生合成への関与が疑われる遺伝子を指標にPCRスクリーニングを実施した。 他に類を見ない化学構造を有するTTXの生合成経路を予測することは困難である。TTX関連物を有毒イモリから探索し、その構造を基に陸上におけるTTXの生合成経路の推測を試みた。質量分析器(MS)を用いて有毒イモリ抽出物を分析し、新規TTX関連化合物を探索した。検出された候補化合物をそれぞれ単離精製後、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて化学構造を解析した。解析の結果、新規のTTX類縁体1-hydroxy-8-epiTTXおよび新規環状グアニジノ化合物2種であることが明らかになった。また、得られた既報のTTX類縁体の構造を再解析することで、その提唱構造を改訂した。我々の先行研究で存在が示唆されていた環状グアニジノ化合物を新たに十分量得たため、その構造をNMRで確認した。これらの新規成分の発見や構造解析により、陸上におけるTTXの生合成経路およびシャント経路についてより知見を深めることができた。本成果を関連学会にて発表し、論文を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
陸上における神経毒テトロドトキシン(TTX)の生合成経路の解明を目指して研究を遂行した。 有毒イモリ生息地からメタゲノムを得て、TTXの生合成遺伝子の同定を目指した。TTXを含有するイモリの生息地から環境サンプルを採集した。環境サンプルより断片化を抑えつつ環境DNAを得て、環境DNAをインサートとしたFosmid libraryを作成した。PCRよる目的遺伝子のスクリーニングの方法の検討し、運用可能な方法を確立した。現在、PCR スクリーニングで選出したFosmidの塩基配列を解析中である。環境サンプルの採集に制限はかかったものの、有毒イモリ生息地の環境DNAを基にFosmid libraryを作成することができ、その評価を実行したため、研究は進行したといえる。 陸上におけるTTXの生合成経路を推測するために、有毒イモリより新たなTTX関連化合物を探索した。候補化合物を各種クロマトグラフィーに供し、精製した。精製した化合物の化学構造を核磁気共鳴装置(NMR)で解析し、新たなTTX類縁体と環状グアニジノ化合物2種を発見した。また、他の関連化合物2種についてもそれぞれ提唱構造の改訂、および構造確認を行った。得られた研究成果によって、想定していた生合成仮説が支持され、陸上におけるTTXの生合成経路およびシャント経路の考察を深めることができた。2020年度の本研究成果を論文として公表した。さらなる新規化合物を得ており、2021年度に公表する予定である。 メタゲノム解析は進行中であり、天然から新たなTTX関連化合物を複数発見している。これより、研究はおおむね順調に進展したと捉えている。
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今後の研究の推進方策 |
陸上における神経毒テトロドトキシン(TTX)の生合成経路の解明を目指す。2021年度は、2020年度の研究を継続および発展させ、当初の計画通り研究を推進する。 これまで有毒イモリの生息地の環境DNAを含むFosmid libraryを作成し、PCRスクリーニングを行った。2021年度は選出したFosmid内の環境DNAの塩基配列を次世代シーケンサーで解析し、得られた配列のバイオインフォマティクス解析からTTX生合成遺伝子の推定を試みる。並行して、2020年度に確立した方法にてFosmid libraryのクローン数の増加を試みる。また、異なる配列を指標としたPCRスクリーニング法の検討を行う。スクリーニングでヒットしたFosmidを次世代シーケンサーによる解析に供し、生合成遺伝子の探索を行う。生合成への関与が考えられる遺伝子が推定された場合、大腸菌等に異種タンパク質発現させ、in vitroの酵素反応にてその機能を解析する。 2020年度に新規TTX類縁体および環状グアニジノ化合物を得た。2021年度も質量分析器(MS)を用いた新規TTX関連化合物の探索を継続する。単離した成分を主に核磁気共鳴装置(NMR)を用いて構造を解析し、DFT計算による検証を行う。現在、新規性の高い構造を有する複数のグアニジノ化合物を得ているため、それらの解析を完了させ、論文として公表する予定である。得られた化合物の構造から、陸上におけるTTXの生合成経路の推定を試みる。推定した生合成経路において重要な酵素を指標とすることで、メタゲノム中からのTTX生合成遺伝子の探索の精度を向上させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
発表を予定していた国際学会Pacifichem(International Chemical Congress of Pacific Basin Societies)が2020年度から2021年度に開催延期になった。2021年度に本学会に参加し、発表する為の費用に充てる。 2020年度末に予定していた次世代シーケンサーによる塩基配列解析の依頼が少し遅れた。2021年度初めに実施し、本解析費用に充てる。
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