ソフトコーラル由来テルペン化合物 sarcodictyin A の生合成に関して、本年度は以下の内容を実施した。前年度のトランスクリプトーム解析結果から、生物試料においてRNA分解が進んでいることが明らかになった。そこでRNAの精製法を改良し、沖縄県に生息するSphaerasclera属のソフトコーラルから新たにRNA精製を行い、次世代シーケンシングによるmRNA-Seq解析を実施した。新たに取得した配列断片を de novo アセンブルし、得られたトランスクリプトームについて相同性探索を行った。その結果、Sphaerasclera属の転写物にはテルペン環化酵素やシトクロムP450酵素の推定遺伝子を含む、各種生合成候補遺伝子が含まれていることが明らかになった。さらに、ソフトコーラルのポリプ部分と共肉部分それぞれにおける全発現遺伝子について遺伝子オントロジーのエンリッチメント解析を行った。共肉部ではポリプ部に比べ、二次代謝全般に関わる遺伝子群がエンリッチされていることが分かった。前年度に行った化学分析とイメージング質量分析から、sarcodictyin Aはポリプ部よりも共肉部に高い濃度で存在していることが示されている。相同性検索で見出されたテルペン環化酵素の候補遺伝子に関しても、共肉部ではポリプ部に比べ約6倍以上発現レベルが高かった。このことから、本天然物に関しては、生体内における局在と生合成遺伝子の発現レベルに正の相関があることが示唆された。今後、本研究で得られた生合成候補遺伝子に関して、生化学実験による機能解析を進める予定である。
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