研究課題/領域番号 |
20K15418
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
江越 脩祐 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 基礎科学特別研究員 (60755932)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ラマンイメージング / アルキン / 重水素 / 安定同位体炭素 |
研究実績の概要 |
顕微鏡の著しい進歩により,化合物やタンパク質をそれぞれ単一で解析することだけではなく,細胞内のタンパク質同士の相互作用やタンパク質と化合物の相互作用をリアルタイムで解析することが可能になった.この解析研究で得られた知見は,薬剤開発や作用機序解明研究など幅広い分野の研究にフィードバックされ,応用研究を通して一般社会へ還元されている.しかし,小分子と小分子の相互作用,特に類似した小分子同士で制御されるそれぞれの細胞内動態を同時に観察できた例は非常に少ない.これは,生細胞で観察用に開発された既存のタグが類似した小分子や複数の小分子を同時に観察するには不向きであるという理由が大きい.そこで申請者はこの問題を解決するため,複数の細胞内小分子を同時に観察できるラマンタグの開発を目指した. 今年度は,重水素とアルキンを用いた,ラマンタグの開発をメインに行い,いくつかのラマンタグに関しては脂肪酸などのイメージングへと適用した.その結果,重水素を用いて既存のアルキンタグと同様に脂肪酸のような小分子化合物の細胞内動態を経時的に観察できる条件を確立することに成功した.さらに,我々は分子量がアルキンとほとんど変わらず,重水素や既存のアルキンと区別して観察できる新たなラマンタグを開発した.この新たなラマンタグを用いることで,分子量のほとんど変わらない2種の脂肪酸の細胞内動態をそれぞれ一度に区別して観察することが可能となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
さまざまな重水素化化合物,アルキン化合物を設計・合成して生細胞でも安定かつラマンイメージングが可能な化合物を模索した結果,アルキンの他にも重水素をタグとして用いることで,小分子化合物の細胞内局在を経時的に観察できることが分かった.さらに,分子量がアルキンとほとんど変わらず,重水素や既存のアルキンと区別して観察できる新たなラマンタグを開発した.新たに開発したラマンタグおよび既存のアルキンタグを用いてラマンイメージングを行うことで,1つの細胞内の,化学構造がほとんど変わらない2種の小分子の局在をそれぞれ区別して観察できることを見出した.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は今年度に引き続き小分子イメージングに適した新規ラマンタグの設計・合成を行い,また,これまで合成されたラマンタグを基盤にして安定同位体炭素で組み込んだラマンタグを開発する.開発したラマンタグが細胞内で経時的に検出できることを確認した後,それらを用いて,複数の小分子の細胞内動態を一度に区別して観察できるラマンイメージング技術の確立を目指す. また,化合物やスペクトルなど論文投稿に必要なデータの収集および今年度までに得られたラマンイメージング技術・研究成果を論文投稿と学会発表で世間に告知する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はコロナウイルスの影響で本研究のスタートが大きく遅れた.研究再開後は,化合物の合成と細胞実験を主として行ったが,必要な試薬や器具は購入済みのものが多く,他の安定同位体元素に比べて比較的安価な重水素を用いた実験を中心に行ったため,次年度への繰り越しが生じた.しかし,次年度には非常に高価な安定同位体炭素化合物の購入と合成を行い,それに付随してラマン顕微鏡のメンテナンス,論文投稿や学会発表などに多額の費用が必要となるため,多くを次年度使用金として計上した.
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