研究課題/領域番号 |
20K15419
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤木 勝将 東京大学, アイソトープ総合センター, 助教 (70736991)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 理研クリック反応 / アザ電子環状反応 / クリックケミストリー / ドラッグ複合体 / バイオコンジュゲーション |
研究実績の概要 |
研究代表者は、これまでに生体高分子のリジン残基側鎖のアミノ基に対して速やかに化学修飾できる理研クリックを用いて、タンパク質や抗体に対して様々な機能性分子を効率的に標識することに成功している。一方で、理研クリックのための不飽和アルデヒドに種々の機能性分子を導入する方法として、テトラジンとtrans-シクロオクテンを用いたクリック反応を用いていたが、反応性官能基を多く持つ機能性分子にそれらの官能基を導入する必要があった。また、テトラジンなどの官能基を数段階の合成にて調製する、もしくは高価な市販試薬を購入しなければならなかった。これらの課題を解決して理研クリックを用いた生体分子標識をより効率化することができると考えた。本研究では、まず二つの不飽和アルデヒドを持つクリック標識プローブを開発して、それを用いて二つの異なる反応性の理研クリックによる効率的なドラッグ-生体高分子複合体の合成を行う。さらに機能を評価し、実用性を示すことを目指す。 今年度の研究では、まず理研クリック不飽和アルデヒドと、よりマイルドな反応性の不飽和アルデヒドを結合した「ジアルデヒドプローブ」を設計し、合成を行った。具体的には、フェニル基を持つ不飽和アルデヒド(理研クリックアルデヒド)のアルコール体と、プロピル基を持つ不飽和アルデヒドのアルコール体をそれぞれ合成し、アジドとアルキンのクリック反応を用いてカップリングして、ジアルデヒド前駆体のジアルコールを得た。そして、これまで不飽和アルデヒドプローブの合成に用いてきたDess-Martin酸化を用いて、ジアルデヒドを合成することができた。また、フェニル基を持つ不飽和アルデヒドに関して、鈴木カップリング反応を用いる経路に改良することで、より量的合成に適したルートを確立することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、異なるアミン分子を選択的に結合する標識プローブを開発することにより、アジドやアルキンなどの非天然官能基を導入することなく、ドラッグ-生体高分子複合体を効率的に合成することを目指す。従って、異なる反応性の不飽和アルデヒドを持つジアルデヒドプローブを開発することが本研究の鍵となる。令和2年度はまず、ジアルデヒドプローブの合成を行った。 マイルドな理研クリックを実現するために、以前の報告を参考にしてフェニル基を「プロピル基」にして、その末端にアジド基を持つ不飽和アルデヒドを設計した。合成はトリフルオロボレートを用いた鈴木-宮浦カップリング反応を鍵反応として、ジオレフィンの合成をE-選択的に達成した。 理研クリックアルデヒドであるフェニル基を持つ不飽和アルデヒドには、その末端にPEGリンカーを介さずにアルキンを導入した。この理研クリックアルデヒドの合成にこれまではStilleカップリングを用いていたが、毒性のスズ化合物を用いることやE-体を選択性に得ることに課題があった。そのため、本研究ではボラン化合物を用いて鈴木カップリングにより合成を検討した。カップリング反応基質であるボラン化合物を種々検討した結果、ピナコールボランを用いることでE-選択的に得ることができた。 アジド基とアルキンをそれぞれ持つアルコール体を用いて、銅触媒を用いたクリック反応を行い、カップリング体を得た。最後にアルデヒドに酸化する経路にて目的のジアルデヒドを得ることができた。 このジアルデヒドプローブを用いて複合化の検討に着手することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、合成に成功したジアルデヒドプローブを用いて生体高分子およびドラッグ分子などのアミン分子の複合化を検討する。それと同時に、様々な複合分子の合成を検討するために、量的供給を目指してジアルデヒドプローブの再合成を行う。また、生体高分子の化学修飾反応は水溶液中で行うことを考えて、親水性のPEGを導入したジアルデヒドプローブの開発も検討する。 また、当初の計画では、Doxorubicinなどの市販の抗腫瘍活性化合物をドラッグ分子として用いて抗体-ドラッグ複合体を合成することを目指していた。さらに独創的な新規な複合化分子を開拓することを目指して、研究代表者が現在開発を進めている有機合成触媒をジアルデヒドプローブを用いて複合化して、より独創性のある複合分子の開発とプロドラッグ創薬を目指す。 さらに、放射性標識分子の合成に本研究で開発するジアルデヒドプローブを利用していく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
まず標識プローブの合成から研究を開始したが、代表者が研究開始当時に所属していた研究室が保有していた試薬を利用することができたため、有機合成実験に用いる試薬購入費の支出が当初の予定より必要とならなかった。 新型コロナウイルス流行のため、学会参加や実験のための出張が全くできなかったため、旅費等は使用せず繰越金とすることにした。 代表者の所属機関が変わり、備品や試薬など物品購入に多くの費用を必要とし、また研究協力者への人件費や謝金に使用する計画をしている。それらを理由に次年度に繰り越しさせて頂く必要があった。
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